VOCの定義とコールセンターでの役割、デジタル時代の変化
まずはVOCの定義とその重要性、近年における変化を解説します。
VOC(Voice of Customer)の定義とコールセンターでの役割
VOCとは「顧客の声」を意味し、企業の商品やサービスに対する意見、要望、不満、評価などを含む総称です。コールセンターでは、電話応対の中での会話、メール、チャットなど、あらゆる顧客対応の場面でVOCが得られます。
コールセンター運用において、VOCは以下のような重要な役割を果たしています。
• 顧客満足度(CS)向上の指針:サービスの改善点や顧客のニーズを把握する材料となる
• 商品・サービス開発への活用:市場の動向や新たなニーズを発見する手がかりになる
• FAQやナレッジの情報元:よくある質問や効果的な応対事例の作成に活用できる
• オペレーター研修の教材:実際の顧客対応を基にした研修素材として活用できる
このように、VOCは単なる「お客様の声」にとどまらず、企業成長を支える戦略的な経営資源であるといえます。
デジタル化によるVOC収集の変化と重要性の高まり
かつてのコールセンターでは電話が主な顧客接点であり、VOCは主に通話内容として収集されていました。しかし現在では、チャット、メール、SNS、FAQページ、アプリ内フィードバックなど、顧客との接点が大幅に多様化し、VOCの収集経路も飛躍的に拡大しています。
この変化により、企業が把握できる顧客ニーズの幅と深さは格段に向上しました。電話では聞けなかった率直な意見がチャットで得られたり、SNSでは商品への自発的な感想を収集できたりと、より多角的に顧客の声を捉えられるようになっています。
一方で、この多様化は新たな課題も生み出しています。各チャネルから得られる情報の形式や質が異なるため、統一的な分析が難しくなり、重要な声を見落すリスクも高まっています。
こうした環境変化の中で、コールセンターはVOCを統合・分析する中核拠点としての役割をますます求められています。各チャネルから収集された断片的な情報を整理し、企業全体の改善へとつなげる機能が必要になっています。
VOC活用における課題と解決策
VOCの活用にあたっての主な課題と、その解決策をみていきます。
収集量はあるのに分類・可視化ができていない
多くのコールセンターでは、電話、チャット、メールを通じてVOCを一定量収集していますが、情報がチャネルごとに分断され、統一的に管理・分析できていないという課題があります。中には、単純な件数をカウントするためで、内容の分類や傾向分析まではできていない企業もあります。
こうしたケースでは、分類ルールの標準化と体系的な管理が効果的です。
「商品に関する問い合わせ」「サービス利用方法」「請求・料金」などのカテゴリを軸に、さらに「満足」「不満」「要望」といった感情タグを付与する分類体系を構築しましょう。すべての関係者が同じルールで分類できるよう、判断基準を文書化し、定期的なレビューとカテゴリの見直しを行うことで、継続的に精度を高めることが可能です。
VOCの優先度付けとKPI反映が属人化する
VOCの中でも、緊急性が高いものや改善インパクトが大きいものの優先度付けが、担当者の経験や感覚に依存してしまうケースも多くみられます。同じ内容でも担当者によって評価が異なるため、重要な課題が見落とされるリスクがあります。
この課題に対しては、「発生件数」「顧客への影響度」「解決の緊急性」「改善コスト」などの項目ごとにスコアを設定し、定量的にVOCの重要度を評価する仕組みを導入するのがおすすめです。経営層と現場スタッフが参加する定期的なVOC評価会議を設け、組織全体で優先順位を判断する体制を構築すると、さらに効果的です。
活用が現場任せで経営判断に結びつかない
収集されたVOCが、現場での小規模な改善には活用されるものの、経営層の意思決定には十分に反映されないというケースもあります。VOCの活用が「収集すること自体を目的化」してしまい、本来の業務改善につながっていません。
この課題を解決するには、経営層への効果的な報告体制を構築する必要があります。
VOCの報告において、定量データ(満足度スコアや解決率など)とともに、具体的な顧客事例や応対内容の要約を提示することで、経営層にも直感的に価値が伝わるようにしましょう。全社的な共有会議やレポートによって、部門を越えた情報共有の場を定期的に設けることが重要です。
効果的なVOC活用のための運用プロセス
効果的にVOCを活用するためには、適切な運用プロセスの整備が重要です。
VOC収集→整理→分析→改善実行までのプロセス設計
VOC活用の鍵は、段階的かつ循環的なプロセス設計です。情報収集後は、あらかじめ定めたカテゴリやタグに沿って整理・分類を行い、次に頻出ワードの抽出や件数の傾向分析を通じて課題の重要度・緊急度を評価します。
そのうえで、具体的な改善アクションを策定し、実施後の効果検証までを含む「収集→整理→分析→優先付け→アクション→測定」という一連のサイクルを確立しましょう。各ステップに責任者と期限を設定することも必要です。
小規模PoCから導入
VOC活用を本格展開する前に、まずは小規模なPoC(概念実証)から始めるのがおすすめです。「解約理由」や「料金に関する問い合わせ」など、テーマを絞った形で1〜2か月のテスト運用を行い、効果や課題を明確化しましょう。
PoCは「テーマ選定→運用試行→効果・負荷の評価→展開判断」の4ステップで進めるとよいでしょう。この段階的なアプローチにより、導入リスクを最小限に抑えながら、自社に合った運用モデルを築けます。
よくある失敗パターンと対策
VOC活用における典型的な失敗には、集計・分析が属人的になってしまうことや、一時的な施策で終わってしまうことがあります。こうした問題は、担当者交代時にノウハウが継承されず、継続性が失われる原因にもなります。
対策として、PDCA型の運用プロセスを確立し、現場と経営を結ぶ報告体制を整備することが重要です。また、VOC活用の成果を定期的に社内共有することで、組織全体の関心を高め、長期的な価値認識につながります。
AI技術がもたらすVOC活用の革新
近年では、AI技術の急速な進化によりコールセンターにおけるVOC活用の手法が大きく変化しています。ここでは、AI技術がどのようにVOC活用に変化をもたらしているのかを解説します。
AIによる分析の自動化と精度向上
AI技術の進化により、従来は人手に頼っていたVOC分析が、大幅に自動化・高精度化されるようになってきました。
音声認識技術の活用
通話内容をリアルタイムでテキスト化することで、オペレーターが聞き逃した重要な顧客の発言も自動的に記録できます。
たとえば「PKSHA Speech Insight」のような音声認識ソリューションでは、通話内容を応対ログとして一元管理でき、従来の手作業では取りこぼしがちだったVOCを網羅的に収集できます 。
感情分析とAI要約機能
顧客のポジティブ・ネガティブな感情を自動で判定し、満足度の変化やクレームの兆候を早期に察知できます。また、AIによる要約機能を使えば、長時間の通話内容から重要なポイントを効率よく抽出し、管理者向けレポートの作成工数を大幅に削減できます。
これらの技術により、VOC分析の精度向上と業務効率化を同時に実現することが可能になっています。
音声認識については以下の記事で解説しています。
AIを使用した音声認識の仕組みとは?ビジネスでの活用例や課題
通話ログの資産化とナレッジベース構築
コールセンターに蓄積される通話ログは、従来の「保管しておくだけの記録」から、「業務に活用できる企業資産」へと変化しています。
傾向分析による業務改善
過去の通話履歴を分析することで、季節による問い合わせ内容の変化や、新商品発売後の顧客反応、FAQの推移などを定量的に把握できます。これにより、事前の対策立案や人員配置の最適化が可能になります。
成功事例の抽出とナレッジ共有
顧客満足度の高い対応や、クレーム処理の成功事例などを通話ログから抽出し、全オペレーターが活用できるマニュアルやナレッジベースとして整備できます。新人研修においても、実際の顧客応対を教材として用いることで、机上では得られない実践的スキルを効率的に習得できます。
つまり、これまで属人化していた熟練オペレーターのノウハウが、通話ログの分析を通じて「組織で共有できる知的資産」として蓄積されていきます。
まとめ
デジタル化と顧客接点の多様化が進む中、VOCをいかに戦略的に活用するかは、企業の競争力に直結するテーマとなっています。分類や可視化の難しさ、優先順位付けの属人化、経営層への反映不足といった課題に直面する中で、組織的な運用プロセスの整備とAI技術の導入が解決の鍵を握ります。
AI技術の進歩により音声認識、感情分析、自動要約などが実用レベルに達していることも追い風です。PKSHA Technologyでは、音声認識技術を活用したPKSHA Speech InsightなどのVOC収集・分析ソリューションを提供しており、多くの企業様のコールセンター業務改善をサポートしています。
VOC活用に関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。