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近年、ストック型ビジネスモデルが従来のフロー型に取って代わってきています。サブスクリプションビジネスに代表されるストック型モデルは、商品売り切り型のフローモデルとは異なり、仕組みやインフラを作り上げれば継続的な収益を見込める点が特徴です。
そのために欠かせないのが「顧客エンゲージメント」です。
本記事では、顧客エンゲージメントとは何か、その重要性や向上のための施策ポイントについて解説します。
顧客エンゲージメントとは
まず「顧客エンゲージメント」とは何なのか、混同されやすい「顧客ロイヤリティ」や「顧客満足度」との違いについて説明します。
(1) 顧客エンゲージメントの意味
「顧客エンゲージメント」とは、マーケティングにおいて企業(サービスや商品、ブランド)と顧客の信頼関係を表す指標を意味します。
エンゲージメント(engagement)は「契約」「約束」という意味がありますが、「エンゲージメントリング(婚約指輪)」という言葉が示す通りここでは「双方の親密な関係、強い結びつき」を指して用いられます。
(2) 「顧客エンゲージメント」と「顧客ロイヤルティ 」の違い
似たような言葉に「顧客ロイヤルティ」があります。「ロイヤルティ(Loyalty)」とはそもそも「忠誠心」を指す言葉で、顧客ロイヤルティは顧客が企業やブランド・サービスへの愛着度を指して用いられます。
顧客エンゲージメントが企業と顧客のフラットで双方向なコミュニケーションを前提にしているのに対し、
顧客ロイヤルティは顧客から企業に対して一方向的な関係性であるといえます。
顧客ロイヤルティは一般的にアンケート調査を通じて顧客の企業に対する愛着心を測定しますが、よく用いられるツールにNPS® (ネット・プロモーター・スコア)があります。
NPS® を測定するには、顧客に「あなたがこの企業(製品・ブランド・サービス)を友人や家族に薦める可能性はどのくらいありますか?」と尋ね、0~10の11段階で評価してもらいます。
そのうち、9~10点(「非常にそう思う」)を付けた顧客を「推奨者」、7~8点を「中立者」、「0~6点(「全く思わない~どちらでもない」)」を「批判者」と分類し、全体回答者に占める推薦者の割合から批判者の割合を引いた値がNPSです。
例えば、100人の回答者のうち推薦者が30人、批判者が60人だった場合、NPSは30(%)から60(%)を引いた「-30」です。回答者の数が多ければ多いほど、誤差は少なくなり、統計的な観点からは400サンプル以上のアンケートが理想的だとされます。
※NetPromoter®およびNPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズ(現NICE社)の登録商標
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(3) 「顧客エンゲージメント」と「顧客満足度」の違い
「顧客満足度」とは、顧客が企業の提供するサービスやプロダクトに対して、どれだけ満足しているかを表した 指標です。
顧客エンゲージメントが商品やサービスを提供している「企業」への信頼度や関係性を表す指標であるのに対し、顧客満足度はあくまでもサービスや製品を対象にしている点で異なります。
例えば、製品やサービスを使ってみて、「良かったけど、次回は別の企業の商品を使ってみたい」と思うことがあります。この場合、「顧客満足度」は高くても「顧客エンゲージメント」は低いことになります。
逆に、ある企業の製品を使い続けているユーザーが「今回の製品はいまいちだけど、次は間違いないはず」と思うこともあります。
この場合「顧客満足度」は低くても「顧客エンゲージメント」は高いことになります。その根底には企業に対する信頼感、強い結びつきがあるのです。
企業が顧客満足度の向上だけに注力していると、顧客との継続的な関係を築くことに失敗してしまう恐れがあり、顧客エンゲージメントを高めることはできません。
顧客エンゲージメントを高めることが重要な4つの理由
顧客エンゲージメントを高めることが重要な4つの理由を紹介します。
(1) コモディティ化 が進み、製品やサービスの差別化が難しくなっている
従来、顧客は購入の際に製品の機能やサービスの質に注目していました。そのため、企業も製品開発やサービスの質の向上に努め、他社との差別化を図り、市場優位性を確保しようとしていたのです。
しかし、近年、どの市場においても機能や質では差別化が難しくなっています。その結果、顧客はできるだけ安いものを求めるようになります。この現象を「コモディティ化」と呼びます。
他方で、誰もがスマホによって商品やサービスについて膨大な情報を手に入れることができるようになり、顧客は製品の価格や質について簡単に比較できてしまいます。こうした状況の中、製品やサービスを売る側である企業が機能や質で差別化を図るのはますます難しくなっており、顧客エンゲージメントが重要視されています。
つまり、顧客は「製品の機能が多い」「サービスの質が良い」という理由だけでなく、製品やサービスの提供者である企業に対して「好感が持てる」ないしは「応援したい」から購入するようになってきているのです。
顧客との強い結びつきは、冒頭で言及したようにサブスクリプションモデルのようなストック型ビジネスモデルとも親和性があり、企業は製品やサービスを「売り続ける」ことの呪縛から解放されます。
(2) リピート率が向上して収益が安定しやすいため
顧客エンゲージメントが高まり、リピーターや継続利用者が増えると売上が安定します。
実際、新規顧客の獲得は、既存顧客の維持よりも5倍のコストがかかるともいわれています。企業側があの手この手でアプローチをかけなくても、「好きだから買う」というリピーターを増やすことで、集客のためのコストの抑制にも繋がります。
実際に、米国の調査会社Gallupによると、エンゲージメントの高い顧客が電気製品店の訪問で使う費用はそうでない顧客よりも29%高く、エンゲージメントの高いホテルの顧客もそうでない顧客よりもホテルに費やす金額が年46%以上高い、といわれています。
(3) 新規顧客の獲得に繋がるため
顧客エンゲージメントが高まると、リピーターが増えるだけでなく、新規顧客の獲得にも有効です。
エンゲージメントが高い顧客はいわばその企業の「フォロワー」であり、「ファン」です。こうした顧客層は企業側が積極的に集客の取り組みをしなくても自らポジティブな口コミやレビューの拡散をしてくれます。
とりわけ、今はSNSやブログによって誰でも発信できる仕組みが整っているため、新規顧客獲得のためのプロモーション効果を期待しやすいといえます。
(4) 顧客から貴重なフィードバックを得られるため
エンゲージメントが高い顧客は、自分が応援する企業に成功してもらいたいと願い続けています。そうした顧客はエンゲージしている企業の製品やサービスについて詳しく、強い思い入れがあります。そのため、使ってみて改善が必要だと感じる製品やサービスに関しては率直に意見や感想を発信してくれるでしょう。企業はそうした貴重なフィードバックに基づき、新規商品、サービスの開発に繋げることができます。
顧客エンゲージメントを計測するための指標(KPI)
顧客エンゲージメントそのものは目に見えないものです。どのように可視化、数値化できるのでしょうか。指標となる3つのKPIについて説明します。
(1) 解約率(チャーンレート)
サブスクリプション型のサービスや定期購入の場合は、解約率を集計することで顧客エンゲージメントの測定に活かせます。
当然ですが、エンゲージメントが高ければ、顧客はサービスや製品を使い続けたいと思い、解約率は低くなります。
解約率は次の計算式で求められます。
解約率(%) = 一定期間に解約した顧客数(人) ÷ 当初の顧客数(人) × 100
例えば、月初めのサブスクリプション申込者が1,000人でしたが、その月のうちに10人が解約したとします。その場合の解約率は10÷1000×100=1%です。
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(2) リピート率
リピート率とは初回購入者のうち、リピート購入する消費者の割合です。次の式で求められます。
リピート率(%) = 一定期間のリピート購入者(人) × 累計新規顧客数(人) × 100
例えば、ECサイトの累計新規顧客数が1,000人、そのうち当月にリピート購入した人が100人いたとします。その場合のリピート率は100÷1000×100=10%です。
(3) 顧客満足度
顧客満足度と顧客エンゲージメントの違いは前述した通りです。ただ、アンケートなどにより数値化される顧客満足度が、エンゲージメントを測定する際の指標になることは確かです。
顧客満足度だけに振り回されるべきではありませんが、上手に活用しましょう。
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顧客エンゲージメントを高める3つの手順
顧客エンゲージメントは戦略的に高めていく必要があります。そのための3つのステップをご紹介します。
Step1:現状調査・現状把握
顧客が自社に対してどのような感情や考えを持っているのかを把握しましょう。そのために、商品やサービスの口コミだけではなく、ブランドや企業に対する評判も収集する必要があります。
また、SNSの口コミや購入率、クリック率などユーザーのアクションを収集して、集めたデータを分析することで現状が浮かび上がってきます。
Step2:カスタマージャーニーマップ の作成
顧客エンゲージメントは顧客と企業との継続的な関係を前提にしています。一朝一夕で築けるものではないため、顧客の行動を時系列化して分析します。
そのために有用なツールが「カスタマージャーニーマップ」です。カスタマージャーニーマップとは、商品やサービスの購入までのプロセスを顧客の感情や志向を踏まえて分析するためのフレームワークです。
顧客の心理状態も含めて分析することで、CX (カスタマーエクスペリエンス)を高めることができます。
「顧客体験」とも訳されるCXですが、企業と顧客が接する各ポイント(タッチポイント)において、どうすれば自社のサービスや製品の価値を感じてもらい、心を動かせるかを分析するために、カスタマージャーニーマップが役立ちます。
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Step3:施策の実行と改善を繰り返す
顧客エンゲージメントを高めるためには、単発で施策を実行するだけではなく、分析と改善を繰り返すことが重要です。各タッチポイントにおいてCXを高めるための施策を試みたら、KPIを分析し現状を客観的に把握するようにしましょう。
改善が必要であれば、さらに対策を講じることでPDCAを回していく必要があります。
顧客エンゲージメント向上に取り組むときのポイント
顧客エンゲージメント向上に取り組むときには4つのポイントに気を付けましょう。
(1) 複数のチャネルでの顧客体験の向上を目指す
前述したように、顧客エンゲージメントは顧客体験(CX)を重ねることで向上します。カスタマージャーニーマップを作成して分析すれば一目瞭然ですが、顧客と商品やサービスの接点は一つではありません。オンラインショップ、実店舗、SNSなどさまざまです。
そのためそのうちの一つだけではなく、考えうるあらゆるチャネルの顧客体験の向上させることが大切です。
(2) 顧客一人ひとりに合わせたサービスを提供する
カスタマージャーニーマップを作成するときには漠然とではなく、特定のペルソナを意識しましょう。顧客目線に立って、感情や心理状態を具体的に分析できるようにすれば、顧客一人ひとりに合わせたサービスを提供できるようになります。
(3) 従業員同士で分析結果や認識を共有する
CXを向上させるためには各タッチポイントでさまざまなアプローチが必要となります。実店舗であれば販売員が、カスタマーサポートではオペレーターが、SNSでは投稿担当者がそれぞれ顧客との接点を受け持つことになります。
各部門での対応がバラバラだと、顧客は企業に対して一貫した印象を持つことが難しくなります。場合によってはブランド毀損に繋がることすら考えられます。
カスタマージャーニーマップ等の分析によって得られた結果や認識、戦略はすべての従業員で共有することでそうした事態を回避できるでしょう。
(4) Web広告を活用する
Web広告を使用する場合は、よりパーソナライズして狙ったターゲット層に情報を発信するようにしましょう。顧客の属性だけでなく、Webページの閲覧履歴や検索キーワードを分析することで、相手が求めている情報提供が可能になり、CXの向上が見込めます。
ただ、あまりにしつこい広告など運用次第では顧客エンゲージメントの低下につながるリスクもあるため慎重さも必要でしょう。
売上を伸ばし続けるには、顧客エンゲージメントが必須
顧客エンゲージメントを高めるには、付け焼刃の施策では不十分です。顧客エンゲージメントが双方向な関係である以上、まずは企業側から歩み寄り、誠実に顧客のニーズに寄り添うことではじめて相手の心も動かせます。
そのためには、全社が一体となり、共通の顧客理解を持ち、マーケティング活動に取り組むことが必要でしょう。
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