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公開日/2025.7.17
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コールセンターの品質管理とは。AI時代の評価指標と新たな管理方法を解説

コールセンターの品質管理とは。AI時代の評価指標と新たな管理方法を解説

「モニタリングをしてもオペレーターが納得してくれない」「評価者によって品質評価にブレが生じてしまう」「フィードバックしても改善につながらない」このような品質管理の課題を抱えるコールセンターは少なくありません。従来の人的モニタリングも重要な役割を果たしていますが、さらなる効率化の余地があり、多くの現場でより良い品質管理手法が求められているのが現状です。
本記事では、4つの品質要素における評価指標から具体的な実施手順まで体系的に解説するとともに、従来手法を補完・強化するAIを活用した新たな品質管理方法の可能性についても提示していきます。

コールセンターの品質管理とは

コールセンターの品質管理とは、顧客との接点である電話対応の質を継続的に向上させる取り組みです。単に顧客からの苦情を減らすだけでなく、顧客満足度の向上と業務効率の最適化を同時に実現することを目的としています。

品質管理が重要な理由は、コールセンターが企業の「顔」として機能するからです。顧客が企業に抱く印象の多くは、コールセンターでの体験によって決まります。質の高い対応は顧客ロイヤルティの向上につながる一方、質の低い対応は企業イメージの悪化や顧客離れを招く可能性があるため、継続的な品質向上が欠かせません。

コールセンターの品質は、以下の4つの要素で構成されています。

応対品質 

応対品質は、オペレーターが顧客との会話で発揮する接客スキルや対応の質を指します。
具体的には、適切な敬語の使用、分かりやすい説明などが含まれます。この品質は顧客満足度に最も直接的な影響を与える要素といえるでしょう。

接続品質

接続品質は、電話のつながりやすさや応答速度に関する品質です。顧客が電話をかけた際にスムーズに接続されるか、待ち時間はどの程度かといった点を評価します。
システムの安定性や回線容量の適切な設定が重要であり、技術的な側面が強い品質要素でもあります。

運営品質

運営品質は、コールセンター全体の業務効率性やコスト管理に関する品質です。適切な人員配置、効率的な業務フロー、リソース配分の最適化などが評価対象となります。
この品質が高いセンターでは、限られたリソースでも安定したサービス提供が可能になります。

処理品質

処理品質は、顧客からの問い合わせや要求に対する業務処理の正確性や完了度を指します。情報の正確な記録、適切な部署への引き継ぎ、問題解決の確実性などが評価されます。
この品質が低いと、顧客の再問い合わせにつながり、結果的に業務効率の悪化を招くことになります。

 

 

 コールセンター品質管理の評価指標・基準

4つの品質それぞれに適切な評価指標を設定することで、客観的かつ継続的な品質改善が可能になります。以下、具体的な指標と目標値について詳しく解説していきます。

応対品質の評価指標

通話内容の質的評価では、挨拶の適切性、敬語の正確性、説明の分かりやすさ、顧客への共感度などを評価項目として設定します。評価方法は5段階評価が一般的で、各項目の重要度に応じて配点の重み付けを行う加重評価を併用することで、より実態に即した評価が可能になります。

定量的な指標として、一次解決率(最初の電話で問題が解決した割合)は70~80%以上を目標とし、顧客満足度スコア(CSAT)は5段階評価で実施し、4以上を「満足」として評価することが一般的です。これらの指標は、応対の質を数値で把握するうえで欠かせない要素となります。

接続品質の評価指標

応答率(サービスレベル)

応答率は、設定した時間内に電話に応答できた割合で表し、一般的には、応答率は90%以上を適正値とすることが多いです。
平均応答時間(ASA)は業界や企業規模によって異なりますが、15秒以内を維持することが理想的とされています。

応答率については以下の記事で詳しく解説しています。
コールセンターの応答率とは?目安や計算方法、数値低下の原因と対策

放棄呼率

放棄呼率は顧客が応答前に電話を切った割合です。理想的には0%に近づけることが望ましいものの、現実的には放棄呼率の平均は8.6%程度となっています。
これらの指標は時間帯別、曜日別に分析することで、より詳細な改善策を立案できるため、継続的なモニタリングが重要になります。

放棄呼率については以下の記事で詳しく解説しています。
コールセンターの重要KPI「放棄呼率」とは?高くなる原因と解決策

 

 運営品質の評価指標

平均処理時間(AHT)

平均処理時間(AHT)は業務内容により大きく異なります。過度に短縮すると応対品質が低下するため、品質を維持しながら適正時間を設定する必要があります。
業界のベンチマークを参考にしつつ、自社の業務特性に合わせた目標値を設定することが大切です。

平均処理時間については以下の記事で詳しく解説しています。
コールセンターの平均処理時間とは?短縮する方法とメリット・注意点

稼働率

稼働率(オペレーターが実際に通話に従事している時間の割合)は80-85%程度が適正範囲とされ、これを上回ると疲労による品質低下のリスクが高まります。
適度な休憩時間の確保は、長期的な品質維持につながる重要な要素といえるでしょう。

稼働率については以下の記事で詳しく解説しています。
コールセンターの稼働率とは?適正値や占有率との違い、計算方法

平均後処理時間(ACW)

平均後処理時間(ACW)は通話終了後の事務処理時間で、システム化により短縮可能な領域です。
デジタル入力フォームの活用や自動化ツールの導入により、効率化を図ることができます。

平均後処理時間については以下の記事で詳しく解説しています。
平均後処理時間(ACW)とは?長くなる原因と短縮するための改善方法

処理品質の評価指標

処理精度・エラー率

処理精度は入力情報の正確性や手続きのミスの発生率で測定します。現場改善の第一人者である濱田金男氏によれば、ヒューマンエラーの発生率はおよそ0.3%とされているため、まずはこれを参考とした目標値を設定してみましょう。
エラーの種類別に分析することで、根本的な改善策を講じることが可能になります。

エスカレーション率・再入電率

エスカレーション率(上位者への引き継ぎ割合)と再入電率(同じ顧客からの再度の問い合わせ)は、どちらも低く抑えることが品質向上の指標となります。
これらの指標は週次・月次で分析し、傾向を把握することで予防的な改善策を講じることができるため、定期的なレビューが欠かせません。

 

 

応対品質管理の具体的な実施方法

4つの品質要素の中でも、応対品質は顧客満足度に直接的な影響を与える最も重要な要素です。そのため、まず応対品質の向上に注力することが品質管理成功の鍵となります。

応対品質を継続的に向上させるには、現状把握のためのモニタリング、オペレーターへのフィードバック、そして組織的な改善という3つのステップを体系的に実施することが重要です。
以下、それぞれの具体的な実施方法について解説していきます。

モニタリング

効果的なモニタリングを行うためには、評価基準の設定から実際の抽出・評価まで、体系的なアプローチが必要です。以下、具体的な実施手順について解説します。

モニタリングシートの作成

まず、評価項目を具体的かつ客観的に設定します。「適切な敬語」ではなく「『恐れ入ります』『申し訳ございません』の使い分けができている」といった具体的な表現を用います。5段階評価より3段階評価の方が評価者による差が生じにくく、実用的です。
評価基準の明文化により、誰が評価しても一定の結果が得られる仕組みを構築することが重要です。

評価基準の統一

評価者間での認識合わせを定期的に実施します。同じ通話を複数の評価者が採点し、差異がある場合は基準の見直しを行います。

サンプリング抽出の設定

各オペレーターに対して月10~15件程度を目安とし、時間帯や曜日、問い合わせ内容のバランスを考慮して抽出します。新人オペレーターは頻度を高め、ベテランは品質維持確認程度の頻度に調整することが効果的です。

ただし、この従来手法には課題があります。管理者が1件あたり10~20分程度の時間をかけて録音を聞く必要があり、大きな負担がかかります。
さらに、評価者が複数いる場合は評価基準のキャリブレーション(評価のブレを抑える調整)が困難で、公平性の確保も課題となります。

音声解析ツールの活用

上記の課題を解決する方法として、AI音声解析ツールの活用が有効です。全通話の自動テキスト化により、100%のモニタリングが可能になり、感情分析やキーワード抽出といった高度な機能により、人では見落としがちな品質要素も客観的に評価できます。
人的モニタリングと組み合わせることで、効率的かつ網羅的な品質管理が実現でき、管理者の負担軽減と評価精度の向上を同時に達成することが可能になります。

フィードバック

モニタリング結果を効果的に活用するためのフィードバック体制を構築します。

個別フィードバック面談

結果通知から1週間以内に実施することが重要です。改善点の指摘だけでなく、良かった点も必ず伝え、オペレーターのモチベーション維持に配慮します。
具体的な改善方法を提示し、次回モニタリングまでの目標を設定することで、継続的な成長を促すことができます。

チーム全体への情報共有

個人名を伏せた形で優良事例や改善事例を紹介します。月次の品質会議で傾向分析結果を共有し、チーム全体の意識向上を図ります。
成功事例の横展開により、組織全体のスキルアップを効率的に進めることが可能です。

改善計画の立案と実行

短期・中期・長期の目標を設定します。研修やコーチングとの連携により、個人のスキル向上と組織全体の底上げを同時に進めます。
計画的なアプローチにより、着実な品質向上を実現できるでしょう。

定期的な見直し

持続可能な品質管理のためには、定期的な見直しと改善が必要です。

定期的な見直しのタイミング

四半期ごとに実施し、評価基準の妥当性や目標設定の適切性を検証します。業界標準や競合他社との比較分析も含めて、目標値の調整を行います。

 データ分析と傾向把握

品質指標と業務効率指標の相関関係を把握し、バランスの取れた改善策を立案します。時系列分析により季節変動や長期トレンドを把握し、予防的な対策を講じます。

 部門間連携

営業部門や商品企画部門との情報共有により、根本的な問題解決につなげます。顧客の声を経営層に定期報告し、組織全体での品質向上に取り組みましょう。

 

 品質管理を成功させるための重要ポイント

品質管理を継続的に成功させるためには、理論だけでなく実際の運用面での工夫が重要です。
とくに重要な3つのポイントに絞って、実務で成果を出すための要点を解説していきます。

オペレーターの協力

品質管理の成功には、オペレーター自身の理解と協力が不可欠です。品質管理を「監視」ではなく「支援」として位置づけ、スキル向上のためのツールであることを明確に伝えます。
フィードバックの際は改善点と併せて成長を実感できる内容を盛り込み、前向きな気持ちで取り組めるよう配慮することが大切です。

継続可能な管理体制

管理者の負荷軽減のため、評価シートのデジタル化や自動集計機能の導入を検討します。音声解析システムやCRM連携により、データ収集と分析の効率化を図りましょう。
その際、無理のない運用スケジュールを設定し、長期的に継続できる体制を構築することが重要です。持続性のない管理手法では、品質向上の効果が期待できないでしょう。

適切な目標設定

現実的で達成可能な目標設定により、オペレーターのモチベーション維持を図ります。業界平均値や自社の過去実績を参考に、段階的な目標設定を行いましょう。
定期的な見直しにより、事業環境の変化に応じた柔軟な調整を実施し、常に最適な目標水準を維持することが成功のポイントです。

 

AIを活用した新たな品質管理の可能性

これまで解説してきた従来の品質管理手法は重要ですが、「サンプリング数に限界がある」「評価者によってブレが生じる」「管理者の工数負担が大きい」といった課題があることも事実です。
これらの課題は、人的リソースの制約や主観的判断の限界に起因するものであり、従来の枠組みだけでは解決が困難でした。しかし、近年のAI技術の進歩は、こうした構造的な課題に対する新たな解決策を提供します。

3つのAI技術による品質管理の進化

音声認識AI:全通話の品質分析

従来のサンプリング方式(月10-15件)に対し、音声認識AIは全通話を自動テキスト化し、100%の品質モニタリングを実現します。例えば、「申し訳ございません」の使用頻度、専門用語の正確性、説明の論理構成などを自動チェックでき、人的評価では見逃しがちな品質課題も漏れなく把握できます。

感情分析AI:顧客満足度の定量化

通話中の顧客感情を0-10のスケールで数値化し、感情変化を可視化します。「通話開始時:不満度8 → 終了時:満足度7」といった具体的なデータにより、どの対応が顧客満足度向上に効果的だったかを客観的に特定でき、品質改善の成功パターンを組織展開できます。

対話行為分類AI:応対スキルの標準化

発言を「質問」「説明」「共感」「提案」などに自動分類し、優秀オペレーターの対話パターンを特定します。たとえば「クレーム対応では最初の30秒で共感表現を3回以上使うと解決率が20%向上」といった具体的な品質向上法則を発見し、組織全体の応対品質標準化に活用できます。

AI活用で得られるメリット

顧客へのメリット

全通話分析により応対品質が組織全体で底上げされ、誰が対応しても一定水準以上のサービスを受けられるようになります。また、効率的な品質管理により業務全体が最適化され、応答率向上や一次解決率向上を通じて、顧客の待ち時間短縮と問題の確実な解決が実現します。

オペレーターへのメリット

通話記録の自動化により、オペレーターがより顧客対応に集中でき、応対品質の向上につながります。また、評価のブレが最小化されることで公平な評価が受けられ、客観的なデータに基づく具体的なフィードバックにより、効果的なスキル向上が実現します。

管理者へのメリット

月100時間以上かかっていたモニタリング業務を大幅に削減し、重要なコーチングや戦略的改善に時間を集中できるようになります。また、月次振り返りから通話直後のリアルタイムフィードバックへ移行することで、問題の早期発見・即座の改善が可能になります。

 まとめ 

コールセンターの品質管理は、従来の人的モニタリングを基盤としながらも、AIを活用することでさらなる品質向上が期待できます。評価の客観性向上、工数負担の軽減、カバレッジの拡大といった課題を解決するには、従来手法とAIを組み合わせた新たなアプローチが効果的です。
PKSHA Speech Insightは、音声認識、感情分析、対話行為分類といった先進的なAI技術を統合し、従来の人的評価を大幅に強化する全通話の客観的品質評価を実現します。人的モニタリングの重要性を保ちながら、属人化しやすい評価業務の標準化と効率化により、管理者の負担を軽減し、オペレーターが納得できる公平な評価体制を構築できます。
従来の品質管理手法の価値を活かしつつ、データに基づいた科学的なアプローチを取り入れることで、顧客満足度向上と業務効率化を同時に達成し、コールセンター運営の新たな可能性を切り拓いていきましょう。

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