「AHT(平均処理時間)を改善したいが、何から始めればよいかわからない」「改善施策を試しているが効果が実感できない」そんな悩みを抱えるコールセンター管理者の方は多いのではないでしょうか。
AHT(平均処理時間)改善は、単なる時間短縮ではありません。オペレーターのスキル向上、システム最適化、業務プロセス見直しなど、多面的なアプローチが必要な取り組みです。適切に実施すれば、生産性向上と顧客満足度向上を同時に実現できます。
本記事では、AHTの基本知識から関連指標との違い、具体的な改善策までを実務視点で整理し、わかりやすく解説します。
コールセンターにおけるAHT(平均処理時間)とは?
AHTは、とくにコールセンターで使われることが多い指標のひとつです。ここでは、その定義や関連する指標との関係を解説します。
AHTの意味と重要性
AHTとは、1件の問い合わせに対してオペレーターが対応を終えるまでに要した平均的な時間を指します。具体的には、通話開始から終了後の処理まで、1人のオペレーターが顧客対応にかけた総時間を指します。
AHTはコールセンターの主要なKPIのひとつであり、業務効率を定量的に把握・改善するための指標として活用されます。対象はオペレーター個人、あるいはチーム単位で設定することができ、適切に管理することで全体のパフォーマンス向上が見込めます。
コールセンターのKPTについては以下の記事で解説しています。
コールセンターの業務改善で重要なKPI一覧|算出方法や目安
コールセンターの「生産性」を管理する5つKPIを解説
AHTの構成要素:ATT・ACWとの関係
AHTは主に以下の2つの要素で構成されています。
指標 |
意味 |
目安時間 |
内容 |
ATT(平均通話時間) |
Average Talk Time |
3~10分 |
オペレーターと顧客との通話時間(保留時間含む)の平均 |
ACW(平均後処理時間) |
After Call Work |
2~5分 |
通話終了後の記録作成、関連部署への連絡などの時間の平均 |
AHT(平均処理時間) |
Average Handling Time |
5~15分 |
ATT + ACW の合計時間の平均 |
ATT(平均通話時間)
ATTは顧客との直接的なコミュニケーション時間を測る指標で、オペレーターの対応理からや商品知識、対応スクリプトの質が影響します。保留時間も含まれるため、業務知識の整理やスムーズな社内連携が求められます。ATTの短縮には、対応スクリプトの最適化やナレッジ整備が有効です。
ACW(平均後処理時間)
ACWは通話終了後の事務処理時間の平均を指し、顧客対応記録の作成、関連部署への連絡、次回対応準備などが含まれます。ACW削減は業務効率化に直結しますが、記録の質を下げてはいけません。業務の正確性を保ちながら短縮するには、入力項目の標準化やツールの活用による自動化などが効果的です。
ACWについては以下の記事で詳しく解説しています。
平均後処理時間(ACW)とは?長くなる原因と短縮するための改善方法
AHTの算出方法と業界別目安
平均処理時間は以下の計算式で算出します。
AHT = ATT(平均通話時間)+ ACW(平均後処理時間)
例えば、保留時間を含む平均通話時間が7分、平均後処理時間が3分の場合、「AHT = 7分 + 3分 = 10分」となります。
業界別AHT目安値
業界 |
AHT目安 |
特徴 |
通販・EC |
5~8分 |
注文確認・配送問い合わせが中心 |
金融・保険 |
10~15分 |
複雑な商品説明・契約手続きが多い |
IT・通信 |
8~12分 |
技術的な問い合わせ・設定案内 |
公共料金 |
6~10分 |
料金照会・手続き案内が中心 |
AHTを改善するメリットと注意点
AHTの改善は多くのメリットをもたらす一方で、進め方を誤ると逆効果になるおそれもあります。
AHT改善によるメリット
AHT短縮により、1件あたりの対応時間が減るため、限られたリソースでもより多くの問い合わせに対応可能となります。主なメリットは以下のとおりです
・待ち呼、あふれ呼の減少:電話がつながりやすくなる
・放棄呼の抑止:顧客の待ち時間短縮により、離脱を防ぐ
・顧客満足度(CS)の向上:迅速な対応による満足度向上
・コスト効率の改善:オペレーター増員なしで処理能力を向上
また、応答率や稼働率の改善にもつながるため、全体としての業務効率向上が期待されます。
放棄呼、CS、稼働率については以下の記事で詳しく解説しています。
放棄呼の意味とは?機会損失を減らす放棄呼率を下げるための対策方法
コールセンターの重要KPI「放棄呼率」とは?高くなる原因と解決策
顧客満足度(CS)とは?重要性と注目指標、向上させる施策
コールセンターの稼働率とは?適正値や占有率との違い、計算方法
AHT改善時の注意点と失敗パターン
AHT改善は効果的ですが、以下のような落とし穴に注意が必要です。
通話時間短縮を重視しすぎる
KPI達成を急ぐあまり対応の質が下がると、顧客満足度の低下につながります。無理のない目標を設定しましょう。
ACWの過剰な削減
ACWを無理に縮めようとすると、記録の質が下がり、ナレッジ蓄積や次回対応、情報共有に支障が出ます。効率だけでなく記録内容の精度も重視しましょう。
オペレーターの負荷を軽視する
精神的なプレッシャーの増加によりパフォーマンス低下や離職率の上昇につながる可能性があります。適切なサポート体制や評価制度も整備しましょう。改善を進める際は、現状の課題を把握しつつ、品質維持とのバランスを意識することが重要です。定期的なCS調査やオペレーターの声を取り入れながら、実態に合った運用改善を目指しましょう。
AHT短縮に役立つ6つの改善策
AHTを効果的に短縮するための代表的な施策を紹介します。自社の状況に応じて、最適な方法を選択しましょう。
オペレーターの研修・教育の強化
定期的な研修もしくは優秀なオペレーターの知見を共有する機会を設けることで、応対スキルの向上が図れます。スキル向上により顧客との会話や他部署との連携がスムーズになり、個人レベルでAHTの改善が図れます。
具体的な施策:
・月1回のスキルアップ研修
・通話録音を活用したフィードバック
・ベテランオペレーターによるOJTの実施
対応マニュアル・社内ナレッジの整備
顧客対応を一定の品質で実施するためには、基本的な顧客とのやりとりを示した「応対マニュアル」や、個々の事例に適切に対応するための「社内ナレッジ」の整備が不可欠です。
整備のポイント:
・よくある質問に対する標準応対フローの作成
・エスカレーション先や応対方針の明確化
・定期的な情報更新(月1回など)
スクリプトの標準化と柔軟な運用
スクリプトを整備することで、対応のばらつきを抑えつつ、会話の進行を効率化できます。ただし、形式的すぎると顧客満足度が下がる可能性があるため、柔軟性のある設計が求められます。
ワークフローや業務プロセスの見直し
ACW削減のため、入力作業の簡素化や自動化可能なプロセスの見直しを行います。記録の品質を保ちつつ無駄な工程を削減することが重要です。
具体的な例:
・定型的な記録項目のテンプレート化
・システム連携による転記作業の削減
リアルタイムの数値管理と可視化
AHTの状況をオペレーター自身が把握できるよう、管理画面などで数値を可視化します。モチベーション向上や自律的な改善意識の促進にもつながります。
音声認識AIやコールセンターシステムの導入
音声認識AIにより通話内容の自動要約・記録が可能となり、ACWの削減に大きく貢献します。また、CRMツールと連携させることで過去の対応履歴を即座に参照でき、二重説明の回避や対応精度の向上が図れます。
こうしたシステムを導入することで、AHTの改善を効率的かつ持続的に進めることができます。
まとめ
AHTの改善は、コールセンターの生産性向上と顧客満足度向上の両立に向けた重要な施策です。ただし、効率化ばかりを追求せず、応対品質とのバランスを保ちながら取り組むことが求められます。
AHT管理・改善の支援にはツールの活用も有効です。PKSHA Speech Insightは、高精度音声認識AIを活用し「ACW削減工数の50%削減」「オペレーターの教育コスト削減」といった成果を支援するソリューションです。
既存の業務フローを大きく変えずに導入できる点も特徴で、AHT改善の一助として活用が可能です。取り組みを検討中の方は、ぜひチェックしてみてください。