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近年、営業組織を強化、改善する手法として「セールスイネーブルメント」という概念・機能が注目を集めています。
セールスイネーブルメントは営業組織全体の底上げを目的としており、活用することで営業プロセスの属人化を解消し、社員一人一人のモチベーションアップや生産性向上に繋げることが可能とされています。
本記事では、セールスイネーブルメントの特徴や導入の手順について解説します。
セールスイネーブルメントとは
セールスイネーブルメントの定義や注目されるようになった理由など、基本的な事項を解説します。
(1) セールスイネーブルメントの意味
セールスイネーブルメントとは、営業組織を強化、改善するための取り組みのことをいいます。
人材の育成、ツールの導入、業務改善など、総合的な視点から営業活動に関わる成果を数値化することで、営業活動全体の強化を目指します。
元々は米国で1990年代に生まれた取り組みであり、AIなどのテクノロジーを活用したMA(マーケティングオートメーション)から始まり、すべての営業を支援する取り組みへと進化しました。現在では多数の米国企業に浸透しており、日本の企業でも注目を集めています。
(2) セールスイネーブルメントが注目される背景
日本における営業活動の方法は、営業担当者個人の考えに任せられることが多く、大きな成果は優秀な人材に偏りがちでした。また、営業のスキルは多岐にわたり、複雑で細分化されていることで、需要の把握が難しく、組織全体の改善を図りにくいという課題を抱えています。
しかし、セールスイネーブルメントを取り入れれば、営業施策の成果が明確になり、営業活動を行うチーム全体の強化に繋がることが期待できます。
このような事情から近年、成長企業を中心に取り入れる企業が増えており、ニーズが高まっているのです。
従来の人材育成(営業トレーニング)との違い
セールスイネーブルメントと従来の人材育成(営業トレーニング)ではどのような点が異なるのか、具体的に解説します。
(1) 対象者の違い
従来の人材育成は主に新入社員を対象に行われていました。組織全体というより、個人の成長や能力アップを目的に行われ、新入社員研修と同じように扱われることが大半でした。
一方、セールスイネーブルメントは、既存社員も含めた社内の営業組織全体が対象となります。
営業に関わる社員全員の成績を上げることが目的であり、導入することで組織として強化・改善が期待できます。
(2) 実施方法の違い
従来の人材育成は、一般的に座学による研修とOJTの実施が中心でした。業務に関する一般的な知識やスキルを習得することが目的であり、配属前に一時的なものとして行われる場合が多かったでしょう。
こうした人材育成は、営業プロセスやノウハウの取得が個人任せになり、属人化が進み、組織全体の強化につながりにくい欠点を抱えています。
対して、セールスイネーブルメントは実用性を重視しており、研修やOJTで学ぶ内容とは違い、実際の現場の課題に即した実践型のプログラムを組みます。
さらに年単位で実行と改善を繰り返して最適化を目指すことで、組織としての理想的な人材育成プログラムの実現に繋げます。
セールスイネーブルメントを導入するメリット
セールスイネーブルメントは営業活動全体を改善するために有効な施策です。
また、営業部門に限らず組織全体を強化する効果も期待できます。以下でセールスイネーブルメントを導入するメリットを解説します。
(1) 営業活動や人材育成を仕組み化できる
セールスイネーブルメントを導入すれば、営業や人材育成のノウハウを仕組み化することが可能です。これにより組織全体の営業力を向上でき、営業プロセスの属人化を防ぐことに繋がります。
例えば、優秀な人材のナレッジや行動パターンを体系化して、マニュアルとして共有するなどの方法があります。
有効な営業プロセスを一定の社員が保有しており、会社全体で共有できていないのはもったいないことですが、営業のノウハウをマニュアル化すれば、組織としての底上げが実現可能となるでしょう。
(2) 営業部門とマーケティング部門の連携を強化できる
営業部門とマーケティング部門の連携が不十分だと、優良な顧客へのアプローチができず、商談の機会を逃してしまう可能性があります。
セールスイネーブルメントを取り入れれば、営業部門とマーケティング部門の情報共有やデータ連携を行うことが可能です。
こうした施策により、マーケティングの成果を営業部門によって最大限に生かすことができるでしょう。
(3) 施策の成果を可視化しやすい
効果が可視化(見える化)されることで、効果検証や施策のブラッシュアップがしやすくなります。
例えば、営業担当者の「顧客へのアプローチ方法」「業績への貢献度」などが数値上で現れるため、定量的に分析でき、営業の受注率アップなど改善につなげることが可能です。
また、数値上で判断することで、営業担当者を適切に評価しやすくなるため、評価に対する不公平感がなくなり、社員のモチベーションアップが期待できます。
セールスイネーブルメント導入の懸念点
セールスイネーブルメントにはさまざまなメリットがありますが、新しいシステムを組織に浸透させるのは容易ではありません。以下でセールスイネーブルメント導入の懸念点を解説します。
(1) 一時的に作業負荷が増すことがある
業務フローが変更される過渡期は慌ただしくなりがちです。業務内容の変更に伴い、必要な人員数が変化するケースが想定されます。
場合によっては人員の削減あるいは増員を検討しなければならないこともあるでしょう。
また、ツールの導入や業務内容が変更するに当たって、社員一人一人に対する研修が必要になることもあります。
社員の多くが研修を受けるためには、それだけ時間を割かなければならないので、通常の業務にかける時間が減少して、作業負荷が高まることが予想されます。
(2) 新しい運用方法を定着させるには時間がかかる
セールスイネーブルメントを導入し、営業体制が刷新されれば、社員の多くが戸惑いを感じるでしょう。
新しい運用方法に適応できず、モチベーションが低下したり、退職を考えたりする社員が現れることも予想されます。
しかし、新しい運用方法は一定の期間を経た後、徐々に効果が発揮されることが多いのも事実です。そのため、導入後すぐに成果が出るとは考えず、定着するために一定の準備期間を要することを理解したうえで、実施するタイミングを検討しなければなりません。
短期間ではなく、少しずつ会社の運営に合わせた導入をしていく方法がおすすめです。
(3) ツールを使用する場合はコストがかかることもある
セールスイネーブルメントツールを導入する場合、コストが発生します。
営業に関するシステムとしてはCRMやSFAの2つが有名ですが、セールスイネーブルメントツールはこれらとは異なり、営業活動全体を改善して最適化するツールなので、新たに取り入れる必要があります。
また、現在セールスイネーブルメントツールは複数のシステム開発会社が販売していますが、機能や価格が大きく異なるため、何を導入すべきは慎重に検討しなければなりません。
セールスイネーブルメントを導入するまでの流れ
セールスイネーブルメントを導入するには、いくつかの手順を踏む必要があります。
以下でセールスイネーブルメント導入の流れを6つのステップで解説します。
Step1:セールスイネーブルメントの担当者を決める
営業の成果アップを目的とするため、一般的には営業チームから担当者を選任します。
プロジェクトはデータの収集からトレーニングプログラムの開発まで多岐にわたるため、責任感のある担当者を立てることが重要です。
マーケティング部門との連携も行うので、営業のみでなくマーケティングの知識がある人が望ましいでしょう。
Step2:営業データの収集や整備を行う
営業データを管理するためにSFAやCRMなどのツール導入が必要となります。
SFA(セールス・フォース・オートメーション)とは営業担当者の行動や商談の進捗状況など情報を管理する営業支援ツールです。
導入すれば営業活動の見える化や効率化、標準化に繋げることが見込めます。
一方、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)とは顧客の連絡先や取引履歴、関係性の状況などの管理を一元的に行う顧客データ管理システムです。
既存顧客との継続的な関係の構築や、優良顧客を生み出すために有効であるほか、他部門と顧客情報を共有したい際にも役立ちます。
Step3:KPIや評価基準などの評価制度を整える
設定していたKPIと評価基準を見直して、セールスイネーブルメントに適した評価制度を整えます。売上の数字だけを見る結果重視の評価ではなく、営業プロセス全体を評価するような体制が求められます。
また優秀な営業人材のノウハウを組織全体で共有するための施策や行動なども、評価対象とすることが重要です。
Step4:トレーニングプログラムを開発して提供する
トレーニングプログラムの開発では、自社の製品やサービスの知識、属する市場、対象顧客のほか、オペレーションのベストプラクティス(最良の方法)を理解していることが前提となります
Step5:提供したトレーニングの効果測定を行う
トレーニングプログラム導入後は、施策ごとの成果を可視化して分析しましょう。
実施した施策の結果をデータ化して取りまとめたうえで、設定したKPIと比較して目標に届いているかの確認をします。
もしKPIと比較して、大きな乖離がある場合は改善策を考えなければなりません。新しい施策を取り入れても、すぐに業務改善ができるケースは少ないため、施策ごとの評価を分析して改善を繰り返すことがセールスイネーブルメントを実現するためのポイントといえます。
Step6:蓄積されたノウハウは経営者層やメンバーに共有する
施策を通して蓄積したノウハウは、経営者層を含めた組織全体で共有することが大切です。
例えば、営業ノウハウをツールとして集約する方法や、営業資料を誰でも閲覧できるように共有する方法などが挙げられます。
こうした施策を行うためには、SFAやクラウド型のデータ集約サービスなどを利用すると効率的に実践できます。
セールスイネーブルメントの勉強におすすめの本・書籍
セールスイネーブルメントを取り入れる企業は増え始めていますが、その概念や役割などは一般的に知れ渡っていないのが現状です。そこでこれからセールスイネーブルメントを学ぶために、参考になる書籍を以下に紹介します。
『営業力を強化する世界最新のプラットフォーム セールス・イネーブルメント』
営業力強化分野の先駆的企業であるミラーハイマングループの手法を豊富な事例やデータを活用して紹介する実践的な書籍です。
著者のバイロン・マシューズは、ミラー・ハイマン・グループのCEOとして卓越した顧客管理によってグループを率い、過去23年間で数多くのフォーチュン500の営業組織のコンサルタントやリーダーを務めた実績があります。
営業、マーケティングなど部門間の連携についても、学ぶべき事項があるでしょう。
『セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の作り方』
セールス・イネーブルメントはどのような流れで進めればいいのか、取り入れる前に整備すべき事項は何かなど、これからセールスイネーブルメントを導入する企業に向けた書籍です。
Sansan、NTTコミュニケーションズ、セールスフォース・ドットコムの成功事例も紹介されていますので、具体的なイメージをつけるのに役立ちます。
『Sales Enablement アカウント型BtoB営業における営業力強化』
セールスイネーブルメントの導入に不可欠なツールであるSFAやCRMの活用方法のほか、営業の働き方改革について学べる書籍です。
具体的な事例も多く掲載されているので、経営者やマネージャーのほか、若い営業担当者にも理解しやすい内容となっています。
BtoB営業の本質を解説とは何か、深く学びたい方におすすめです。
セールスイネーブルメントを導入するためには計画性が重要
セールスイネーブルメントは今後も多くの会社で導入が進むことが予想されます。営業の組織力に課題を感じている会社は、取り入れることを積極的に検討すべきでしょう。
ただし、効果が発揮されるまでには一定の時間が必要なので、時間をかけて徐々に浸透させる意識を持たなければなりません。また、セールスイネーブルメントツールの流れを理解したうえで、計画を立てて進めていくことが大切です。