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公開日/2020.1.27
インタビュー

ビッグローブが語るサポート成功の条件【前編】:自己解決率向上に向けたビジュアルIVRとAIチャットボットの活用術

ビッグローブが語るサポート成功の条件【前編】:自己解決率向上に向けたビジュアルIVRとAIチャットボットの活用術
1996年にNECグループのインターネット接続サービス「BIGLOBE」としてスタートして以来、大手インターネットサービスプロバイダーとして親しまれてきたビッグローブ。2014年には「ビッグローブ株式会社」として独立し、現在では光回線を利用した質の高いインターネットサービスとともに、スマートフォン向けにもMVNOサービスを展開するなどサービスの幅を広げ、多くのユーザーに利用されています。
固定回線とモバイル回線の両ユーザー向けのサポートを効率化するためのものとして、2018年8月からビッグローブが取り組んでいるのが、ビジュアルIVR(以降、V-IVR)とAIチャットボットに有人チャットサービスを組み合わせた仕組みです。その導入から利用向上までの取り組みについて、ビッグローブ株式会社 コンシューマ事業本部 CS推進部 オムニチャネルG グループリーダーの土生香奈子氏に伺いました。

 

入電数削減を目指してV-IVRとAIチャットボットを利用した「自動チャットサポート」を開始

ビッグローブにおいて、カスタマーサポート面における2018年から開始された新たな取り組みの目的は、入電数削減にありました。従来はサポートメニューとしてWeb上にFAQは用意しつつも、対人対応としてメールと電話を用意。主に電話サポートが利用されていました。しかしユーザー数が多く、サービスの特性上繁閑がはっきりしていることから、繁忙期には実際に電話が繋がるまでユーザーを待たせることも多くあったそうです。

そこで、Web上に公開しているFAQをよりよく利用してもらうことで自己解決率を向上させることを目的に導入されたのが、V-IVRとAIチャットボットです。スマートフォンから電話してくるユーザーが多いことを利用し、スマートフォンからの入電ならばIVRでV-IVRの存在を告知し、希望者には利用のためのURLをSMSで発行します。後はV-IVR上で自社キャラクター「びっぷる」に質問するという形でAIチャットボットを利用させ、FAQでの自己解決を目指すという流れです。FAQでは解決できない場合や、対人対応を希望する場合には有人チャットサービスもV-IVR上から選択可能になっています。

「自己解決できたかどうかは、FAQの末尾にあるアンケートで解決したと答えた人の数とUUで算出する予想値ですが、とりあえずここで3000、有人チャットで1500というイメージで、全体で入電数を4500以上は削減できると考えました」と土生氏。
コールログを分析し、電話対応でしか解決できないものは省き、本来ならばWeb上の情報で解決できるはずのものをAIの学習データとして登録してサービスをスタート。その後、利用率向上へ向けた改善活動が続けられました。
「まず、SMS配信、V-IVR、AIチャットと有人チャットという3パートに分けてそれぞれの部分で改善活動を行うことにしました。たとえば最初はクリック率の低かったSMSは、「偽SMSではないか」という不安を払拭して、利用してもらえるように文字数制限の中で文言を工夫したところ、80%程度の状態から95%程度までクリック率を向上することができました。SMS配信へ誘導するIVRでも、サポート業界で使われる丁寧な案内は冗長であると考えて文言を整理し、なるべく早めにV-IVRの存在が伝わるようにしました」と土生氏は細かな工夫を語ってくれました。

固定電話からの入電もV-IVRへ誘導! 入り口を増やしてAIチャットボット利用率を伸ばす

2019年6月にはAndroid向け、7月にはiPhone向けにMy BIGLOBEアプリもリリースし、そこからAIチャットボットへの誘導も強化。さらに7月からは固定電話からの入電にもスマートフォンを保有しているのならば番号を入力してもらう形で、SMS送信を実行。V-IVRへの誘導口を増やしています。

「チャットボットの利用者を増やせば増やすだけ、自己解決数が多くなるので誘導を強化しようと考えました。アプリからAIチャットボットへ誘導するボタンを作ったところ、利用者数が2.5倍に急増しました。さらに固定電話からの入電を誘導できるようになったことで、誘導は約1割上積みできました。結果として、自己解決数が増え、その分、電話がかかりやすくなってきています」と土生氏。

しかし、誘導を強化して利用者数を増やしたことで予想外の質問が入るようになってしまうという問題も発生したといいます。

「サービスイン当時は回答が表示できることが60%程度だったところを、言い回しの工夫などをブラッシュアップすることで80%まで上げようと努力してきました。ところがアプリからの誘導を行ったことで、ビッグローブで提供している全てのものについて質問が入るようになり、回答表示率が逆に下がってしまいました。チーム全体で危機感を持って再度ブラッシュアップを行った結果、最高値を約90%以上にキープすることができた月が出るようになりました。現在でも、コンスタントに85%以上を維持していますが、できればコンスタントに90%以上に上げられるようにしたいですね」と土生氏は意気込みを語ります。

表示された回答が正しいものだったかどうか、ユーザーが解決したと感じているかどうかについても精査し、他社事例で基準とされている70%の正答率はクリアしているそうです。

「本当は75%くらいをめざしたいのですが、なかなか届かず73-74%といったところです。お客様が成功体験を得て、電話をするよりも簡単だと理解してもらうことでリピートを増やしたいと考えています。こうした取り組みの結果、2019年9月には新たな目標として掲げていた数値も軽々と超えるだけの成果が出せました」と土生氏は語りました。

有人チャットに本人確認機能を追加し回答可能範囲を拡大

V-IVRに誘導されても、AIチャットボットでは解決できないと判断された問い合せは有人チャットで対応します。AIチャットボットでは回答が得られなかったり、有人のサポートでなければ不安だったりといった人の場合への十分な対応ができるわけです。しかし、ここで回答できずに通常の電話対応へ誘導せざるを得ないものもあります。そういった問い合せには、特徴がありました。

「有人チャットの内容を見ると、特典はいつ付与されるのか、解約したつもりのオプションが確かに解約されているかどうかを知りたい、SIM到着日や回線工事日を知りたい、というような内容が多くありました。これは一般的な回答ではカバーできないため、従来の有人チャットでは解決できなかったわけです。そこで2019年6月からは本人確認を行い、契約情報を閲覧することで正確な回答が行えるようにしました」と土生氏は新たな取り組みについて語ってくれました。

チャット上に個人情報を入力することに抵抗を感じる人は少なくないものですが、ビッグローブでは有人チャットでオペレーターが入力する定型文をキーにしてユーザー端末上に個人情報入力専用画面を表示するような仕組みを作り、さらにオペレーターの操作画面でも契約情報は一時的なポップアップ表示にとどめてログに残さないことで個人情報を保護しつつ踏み込んだサポートを実現しています。サポート内容も、完全な本人確認ができた場合と、不完全ながら一部確認できた場合とで対応範囲を変更するなど柔軟です。

「契約情報を見ればお客様の名前がわかるわけですが、万が一の間違い防止にお名前で呼びかけることは禁止し、「お客様」と呼ぶことを徹底しています。またチャットサポートは1オペレーターが複数のお客様を対応できることがメリットですが、これも間違い防止のために1オペレーターで2ユーザーまでに限定し、対応のための端末を物理的に分ける工夫も行っています」と土生氏は安全性に配慮しながらも深い対応ができる体制を構築していることを語ってくれました。

本人確認の実施によって、有人チャットでの解決率は50%程度から60%程度へと向上しました。しかしその内容を精査すると、さらに改善点は見えてきているといいます。

「有人チャットで、本人確認なしで解決できた問い合せは大量にあります。これは本来、AIチャットボットでも対応できたはずのものです。また一方で、本人確認を行わずに電話対応へと誘導してしまったものも多くあります。この中には、本人確認すれば有人チャットで解決できた内容もあるはず。それぞれ、本人確認なしで対応できたものはAIチャットボットへ、電話対応へ誘導してしまったものは本人確認をして有人チャットへと対応を切り替えて行きたいですね」と土生氏は目標を語りました。

AIチャットボットへの誘導を強化し、有人対応はロイヤルティ向上に特化させるのが目標

順調に利用者を増やし、入電数を減らすという目標に取り組み続けているビッグローブですが、V-IVRへの誘導を強化しつづければいいというわけではないと感じているようです。

「問い合せ全体の数を減らす必要はなく、ノンボイスで対応できる率を伸ばしたいと考えています。今のところV-IVR利用率は当初の1.5倍までは伸ばせたのですが、全体の3-4割はノンボイス対応という状態を目指したいですね。ですが、誘導を強化すると有人チャットの数も増えてしまうのが難しいところです。V-IVRへ誘導したうち半数は有人チャットへ流れてしまうので、いたずらに誘導強化するばかりでもいけません。できるだけAIチャットボットで対応したいところです」と土生氏。

ユーザーの中にはAIチャットボット利用の意向が低く、V-IVRへ誘導してもまっすぐに有人チャットを選択してしまう人がいるそうです。このユーザー層に対して、有人チャットにすぐにつなぐのではなく、ユーザーからの問い合わせの多い質問項目を再度表示するワンクッションメニューを入れることで、有人チャットへの誘導削減を狙うなど工夫が続けられています。

「利用者が増えることで、満足してくださるお客様数自体は増えているのですが、ネガティブなコメントも増えています。そのコメントを分析すると「電話が繋がらない」というようなV-IVRやAIチャットボットとは違う苦情も多数存在しています。そのため、ある程度カテゴリ分けして5つくらいの分析軸に分類し、自分たちの管轄については改善施策を検討、管轄外についてはVOCと共に各担当部署に展開してあげていくなどもしたいと思っています。今は、さらにAIチャットボットの使い勝手をよくするなどしつつ、電話をする前のお客様についても対策を考えています」と細かな工夫を繰り返しながらブラッシュアップを続けていることを語ってくれた土生氏は「最終的には、雑多な質問はAIチャットボットやFAQで対応し、電話や有人チャットなど人が対応するものはロイヤルティの向上に特化できるようにしたいですね」と将来の目標も語ってくれました。

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