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近年はサブスクリプションモデルやSaaSの台頭により「顧客ロイヤルティ」という言葉が注目されています。この言葉は、顧客が企業や企業のサービスなどに対して信頼や愛着を感じることを表す言葉となります。
顧客と企業との関係は一時的な購買関係で終わらず、継続的な関係を維持できることがビジネスの拡大にとって不可欠なものとなりつつあります。この関係はオンラインビジネスだけではなく、例えば飲食業やサービス業でもいえることです。
本記事が皆様にとってご自身の業種での顧客ロイヤルティを考えるきっかけになれば幸いです。
「心理ロイヤルティ」と「行動ロイヤルティ」を理解する
顧客ロイヤルティを理解する上でポイントとなるのが「心理ロイヤルティ」と「行動ロイヤルティ」です。この二つは顧客ロイヤルティを構成する重要な2つの要素となります。
心理ロイヤルティ
商品やサービス、企業に対する「好意」や「愛着」、「信頼」などが相当します。
行動ロイヤルティ
特定企業の商品やサービスを継続的に購入することや、商品やサービスを他人に勧めることを指します。
この2つのロイヤルティは、心理ロイヤルティを高めることによって、行動ロイヤルティが高まっていくという関係になります。顧客の企業に対する愛着や信頼が深まっていくことによって、企業との接点が増え、購買活動や友人・知人への推薦にもつながっていくのです。
皆様の中にも、SNSで「いいね」とクリックしたり、ある商品やサービスを勧める記事や投稿を書かれた経験がある方もいらっしゃると思います。それらは全て心理ロイヤルティの上に成り立つ行動ロイヤルティの一部といえます。
では、行動ロイヤルティだけを高める活動をしていったらどうなるのでしょうか?
具体的には、一時的なセールを展開したりキャンペーンを展開するなどして顧客との接点を増やし、売り上げを増やす活動です。
この場合に必要な施策は、獲得した顧客に対する心理ロイヤルティを高める施策です。心理ロイヤルティが低いままの顧客はいつ離反するかわからない営業上のリスクとなります。
また、顧客ロイヤルティが注目されているのは、企業がいかにして多くの「良質な固定客」を獲得できるか、という視点でもあります。その為には、顧客に企業やサービスに対する愛着や信頼を醸成してもらうための施策を展開し、継続して心理ロイヤルティを高めていく必要があるのです。
顧客ロイヤルティ戦略3つのメリット
それではここで、顧客ロイヤルティを高めていくメリットをさらにわかりやすく3つに整理したいと思います。
(1) リピート率の向上/解約率の低下
顧客ロイヤリティの高いユーザーほど、自社の商品・サービスを繰り返し購入・利用する傾向がある。
裏を返すと、顧客ロイヤルティが低いと競合他社の商品・サービスへ乗り換えされてしまう。
(2) 顧客単価の向上
顧客ロイヤリティの高いユーザーは、年間平均購入金額や1回あたりの購入金額が高い傾向がある。
また、自社の商品・サービスに対して好意的なため、アップセルやクロスセルにも繋がりやすい。
(3) 口コミで新規顧客の獲得につながる
顧客ロイヤリティの高いユーザーは、家族や友人、同僚などに自社商品・サービスを勧める傾向がある。
一方で、顧客ロイヤルティ戦略に取り組めていないと、不満を持った顧客は商品やブランドに対する悪い評判を広めてしまうリスクもある。
顧客ロイヤルティを重視しているわかりやすい例として、宝飾品ブランドや健康食品ブランドなどがあります。これらの業種は心理ロイヤルティを最重要視しており、広告・宣伝では顧客接点の強化だけにとどまらず、新規・既存顧客に対する心理ロイヤルティ強化を通して上記3つのビジネス上のメリットを実現しているのです。このような顧客ロイヤルティ戦略は現代において様々な業種で重視されつつあります。
「顧客満足(CS)」と顧客ロイヤルティとの違い
さて、ここまで読んでいただいた方々の中には「顧客満足度とどう違うの?」と思われた方がいらっしゃるかもしれません。
まず、顧客満足度(Customer Satisfaction)という言葉は1980年頃から広がり始めた言葉で、売上や購買金額といった数字だけでなく「買った商品/利用したサービスに満足したか」という体感にも着目した指標です。
対して、顧客ロイヤルティは「企業やブランドに対する信頼や好意などの感情」を基にした期待や評価がポイントとなります。必ずしも「顧客満足度が高い顧客=商品を継続して購入する顧客」とはなりません。
マーケティングの世界でも「プロダクトアウトからマーケットインへ」と叫ばれて久しいですが、顧客満足度とは違った指標として「顧客ロイヤルティ」という言葉が出てきた背景にはインターネットの普及、SNSの普及も大きく関わっています。
品質の高いモノやサービスがあふれる時代に、製品自体の満足度だけでは顧客をつなぎとめることが難しくなってきており、商品・サービスそのものだけでなく、購買プロセスやサポート体制の重要性も高まっています。顧客が期待している最低限の価値を満たすだけでなく、顧客の期待を上回った関係性の構築をしていく事、それが顧客ロイヤルティを高めるために必要な事なのです。
顧客ロイヤルティを向上させる方法とは
それでは顧客ロイヤルティを高める施策を検討するポイントとして、3つのステップに分けてご紹介したいと思います。
【Step1】 顧客ロイヤルティに最も影響を与えている顧客体験を特定する
何を改善すれば顧客ロイヤルティは向上するのでしょうか?
その要素は企業や商品、サービスによって様々です。まずは自社の顧客がロイヤルティを感じているポイントを把握しましょう。担当営業やWebアクセスデータ、アンケートデータなどを参考に顧客体験の改善点を洗い出していきます。
重要なのは「商品・サービスの満足だけでは顧客ロイヤルティに影響しない」というポイントです。先にも述べた通り、商品・サービスの満足は顧客満足度を高める結果となりますが、これはいわゆる「頭で満足」する部分です。顧客が「心で満足」する顧客体験は何なのかを見極めましょう。
【Step2】 特定した顧客体験の改善施策を実行・検証する
顧客ロイヤルティに深く影響する顧客体験を見ていくと、「契約・購入後」での課題が見えてくることが多くあります。
顧客視点で考えても、契約・購買直後は不安で慣れない面もあり、顧客は企業から提供される情報に対して、より注意深くなっているものです。顧客ロイヤルティの向上は、顧客の抱く購買時の期待値を上回る体験が必要となります。
また、顧客ロイヤルティを高めていくために重要な「心の満足」に影響する要素として、「感動体験」と「落胆体験」があります。
例えば、契約している自動車保険会社へ事故直後に連絡した際、ケガを心配する気遣いの一言や、率先した事故処理のサポート、迅速な保険金支払いと治療中のフォローが行われることによって「この保険会社は頼りになる」と思われるかと思います。これが「感動体験」となり、顧客ロイヤルティに深く影響する顧客体験と見ることができます。
裏を返すと、こうした事故後の処理に不手際があったり、顧客視点で「対応が遅い」となると「落胆体験」となり、顧客ロイヤルティが低下し、離反につながってしまうのです。
【Step3】 顧客ロイヤルティをNPSで見える化する
顧客ロイヤルティ戦略を展開していく上で、いまの顧客ロイヤルティはどの程度の水準なのか、施策展開後にどの程度改善したのか?は非常に気になるポイントかと思います。
この顧客ロイヤルティは「NPS(Net Promoter Score)」という指標を用いて定量化することが可能です。
NPSは顧客ロイヤルティ(企業やブランドに対する愛着・信頼の度合い)を数値化する指標です。NPSは「顧客推奨度」と呼ばれることもあり、既存顧客に対して11段階評価のアンケートを取って算出します。
まずはNPSを算出する6つのステップをご紹介したいと思います。
その1:顧客に「このサービス(企業・ブランド・商品)を周囲の家族や友人に勧める可能性はどのくらいありますか?」という質問を行う。
その2:勧める可能性を0~10の11段階で回答してもらう。
その3:11段階のうち、9や10と評価した顧客を「推奨者」と分類する。
その4:7や8と評価した顧客を「中立者」と分類する。
その5:0~6と評価した顧客を「批判者」と分類する。
その6:回答者全体の推奨者の割合(%)から、批判者の割合(%)を引く。(=NPSの指数)
例えば、100人の既存顧客に対してアンケートを取った際に推奨者が30人、批判者が50人だった場合、30-50で、NPSの数値は「-20」という結果になります。
NPSが注目されている背景としては、先にもご説明した通り「顧客満足度が高い顧客=商品を継続して購入する顧客」とはならない、という事情があります。
一方で、NPSは当該企業の業績との相関が高い調査といわれており、様々な企業でNPSを指標とした施策検討がなされています。日経BPコンサルティング社とEmotion Tech社が共同で行った調査結果 では、「NPSが売上に直結する」ことが立証されており、事業経営のうえでも非常に重要な取り組みという認識が広がり始めています。
顧客ロイヤルティ戦略におけるカスタマーサポートの役割
顧客ロイヤルティ戦略を考えるうえで、最も多く取り上げられるのがカスタマーサポートの分析です。
商品やサービスに対するクレームや「使い方がよくわからない、どこで購入できるのかわからない」などネガティブな意見を寄せられることが多いのもカスタマーサポートですが、「不満を持った顧客に高い満足度を感じていただくことでファンになってもらえた」といった事例も存在し、カスタマーサポートの対応品質は心理ロイヤルティへ大きく影響を与えます。
そのうえでカスタマーサポート役割を考える際、重要なのは2つの施策です。
【施策1】 カスタマーサポートの利用顧客を増やす
カスタマーサポートは苦情受付窓口ではありません。企業Webサイト等でも積極的に窓口のアクセス先を公開し、どんな悩み、相談でもできる、問い合わせのしやすい窓口を用意することが顧客ロイヤルティを向上させる基本施策といえます。
土日対応やSNSアカウントの展開、チャット窓口等により顧客接点(チャネル)を増やすことは、こうした施策の具体例となります。
【施策2】 カスタマーサポートの満足度を高める
カスタマーサポートのチャネルを増やしても、ご利用いただいた顧客の満足度が低くては顧客ロイヤルティを下げる要因になりかねません。また、チャネルは必ずしも有人窓口である必要はありません。
企業Webサイト上でFAQを充実させて自己解決できるサポートページを用意したり、チャット窓口にAIを取り入れて回答品質を向上させることも施策の一つとなります。もちろん有人窓口で積極的なモニタリングを実施して、応対品質を向上させることも重要です。
顧客ロイヤルティを向上させるうえで重要な心理ロイヤルティ対策ですが、上記2つの施策を実現できるカスタマーサポート部門は、顧客ロイヤルティを向上させる、非常に強力な組織として活躍するはずです。
まとめ: 顧客ロイヤルティはより重要な指標に
顧客ロイヤルティという言葉が使われ始めて暫く経ちますが、実際にどう理解してよいのか、施策を考える際のポイントや具体的なメリットなど、いまいちピンとこない方もまだ多いと思います。
このコロナ禍では顧客との接点が希薄になったという業種が増加する一方で、オンライン化に取り組むことでその関係性をフォローしようと模索されている企業も多いです。顧客ロイヤルティはそのような動きの中で今後より重要な指標となります。
皆様の担当されている業務の中で顧客ロイヤルティがどのように作用しているか、参考になれば幸いです。