三井不動産株式会社 / 三井不動産ビルマネジメント株式会社
RAGにより4,080時間の問合せ削減見込み
グループ横断の生産性向上で社長賞を受賞
導入サービス | PKSHA AIヘルプデスク |
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業種 | 不動産、不動産管理 |
活用対象 | 社員 |
導入目的 | 問合せ業務の効率化 |

田中 翔太 様 三井不動産株式会社 DX本部 DX四部 DXグループ
髙橋 光 様 三井不動産ビルマネジメント株式会社 オフィス事業推進本部 運営部 運営グループ
会社、ご担当者様の紹介
まず、皆様のお役回りについて教えてください。
田中様:私は三井不動産のDX本部に所属しており、三井不動産グループ全体のデジタル活用を推進する役割を担っています。元々はPKSHA AI ヘルプデスク(以下、AI ヘルプデスク)の導入を進めたDX2部におりましたが、現在はDX4部という、データ・AI活用を加速させるために新設された組織に所属しています。 現在の主なミッションは、データ活用を起点としたAIによる業務高度化です。生成AIのような新しい技術も活用しながら、まずは業務効率化を進めつつ、将来的には街の魅力を高め、競争優位性を確立するような新しいビジネス価値の創出を目指しています。
髙橋様:私は三井不動産グループの中で、オフィスビル等の運営管理やソリューションサービスの提供を行っている三井不動産ビルマネジメントの運営部に所属しています。運営部では、主にオフィス物件担当者の業務支援や、三井不動産基準の社内ルールの策定・更新などを行っています。今回のAI ヘルプデスク導入も、日々発生するマニュアルなどの検索業務を効率化できないかという検討から始まりました。
「業務効率化」と「街の魅力」の向上は直接的な関連が見えにくいですが、日々どのように取り組まれているのでしょうか?
田中様:DXを掲げている部門として、現場からは業務効率化への要望を多くいただきます。一方で、経営層は新しいビジネスや価値創出に大きな期待を寄せています。社長がよく「両利きの経営」と表現するのですが、DX本部はまさに現場の声を理解し既存業務を効率化しながら、新たなイノベーションの創出に取り組むという両利きの難しさとやりがいがありますね。目の前のことだけではなく、将来を見据えた動きのためには、全社の生産性をあげることが重要と捉えて活動しています。街づくりにおいて新しい価値を生めたかというと、まだ道半ばですが様々なアイデアを構想中です。
例えばAIが電気の利用状況や健康状態など包括的にサポートしてくれる超スマート住宅や、究極的には建物が「田中さん、お久しぶりですね」と語りかけてくれるようなパーソナルなレコメンドをしてくれる商業施設など、未来の妄想はいろいろあります。特に若手社員は固定観念にとらわれない柔軟な発想をするので、そうした声を大切にしながら、地に足のついた業務効率化も進めています。
アイデアソンから社長賞受賞へ。AI ヘルプデスク導入のユニークな経緯

今回のAI ヘルプデスク導入は、社内のアイデアソンで社長賞を受賞されたプロジェクトがきっかけと伺いました。その経緯について詳しくお聞かせいただけますか。
田中様:ChatGPTが登場し、社内でも「&Chat」という汎用生成AIチャットボットをスクラッチ開発していました。その報告を経営陣にした際、社長から「このチャットボット自体は良いものだが、生成AIの技術革新は凄まじく、一般社員がその真価を理解するのは時間がかかるのではないか。三井不動産は祭り好きな社風がある。何か社内をイベントで盛り上げつつ生成AI活用を促進できないか」という提案があったんです。そうして始まったのが生成AIアイデアソンです。
優勝者には賞品も用意して、全社的に生成AIや&Chatへの関心を高めました。2024年度には3回のアイデアソンを開催し、合計約500件ものアイデアが集いました。各回で3、4名の優秀賞を選出し、年度末には約250分の1という狭き門を突破した珠玉のアイデア2つが選ばれ、社長賞が贈られました。
その社長賞を受賞したうちのひとつが、今回のAI ヘルプデスクに繋がるアイデアです。第2回のアイデアソンのテーマが「現場での困りごとと、それを解決するためのデータ活用アイデア」だったのですが、その際「現場が情報検索作業に非常に困っている」という声と共にエントリーされたものです。
我々のようなデベロッパービジネスは土地取得や開発の業務に光が当たりがちですが、テナント様に日々価値を提供している「運営」は非常に重要な領域です。事務局としても、この運営領域を高度化するためには、若手社員が資料検索に膨大な時間を費やしているのは非常にもったいない。この課題解決は優先度が高いと判断し、プロジェクト化が決まりました。
ちなみに、社長賞を受賞したもう1つは、実現性に課題は残るものの非常にユニークで将来性を感じさせるアイデアでした。ここにも「両利きの経営」の考え方が現れています。
AI ヘルプデスクのセーフティネットとSaaSとしての価値
数あるソリューションの中から、PKSHAのAI ヘルプデスクを選ばれた理由は何だったのでしょうか。
田中様:現在は社内の問合せにフォーカスしていますが、将来的にはテナント様にも公開して、困ったときに検索したり質問したりできるようにしたいという構想があるんです。そうしたときに乗り越えなければならない課題がハルシネーション(AIが誤情報を生成する現象)です。AI ヘルプデスクは、AIの回答が一定の基準を下回った場合、スムーズに有人対応へエスカレーションする仕組みが、いくつかのサービスを比較検討した中で最も洗練されていました。 このセーフティネットの存在は、我々DX本部がビルマネジメント側へ「こういう対策ができています」と説明する上で非常に重要でしたし、実際のビジネス運用においても不可欠な機能だと感じました。
髙橋様:AIが誤った情報を自動回答してしまうリスクは、私たち現場にとっても大きな懸念事項でした。「確実性を確認した上で進めたい」という思いが強く、導入前の検証段階からPKSHAさんにしっかりと対応いただけたことで、社内での承認プロセスも円滑に進めることができました。
社内では「&Chat」のような生成AIツールも活用されていたとのことですが、どのようなシーンで使われていたのでしょうか?
田中様:&Chatはアイデア出しや壁打ち目的で使ってほしいという思いがあったのですが、実態としては検索の延長のような使い方が多いんです。今でこそ検索用途は減ってきていますが、それでも数としてはトップです。だからこそ、ドキュメント検索とは親和性が高かったのかもしれません。
「&Chat」でもRAGを試されたと伺いました。PKSHA AI ヘルプデスクとの違いはどのような点にありましたか?
田中様:そうなんです。実は、&Chatを使って同様のRAG機能を内製で試作し、PKSHAさんのドキュメント検索と比較検証を行いました。同じ質問を投げてテストした結果、純粋な回答精度という点ではほぼ同等でした。しかし、PKSHA AI ヘルプデスクは参照元をきちんと明示してくれる点や、そもそものUI/UXが非常に使いやすく設計されている点が大きく異なりました。内製版は機能実装が主眼で、UI/UXまで十分手が回っておらず、仮に機能が同じでもここまでスムーズに利用は広がらなかったかもしれません。
また、運用保守の観点も大きな違いでした。PKSHAさんのサービスはSharePoint上のファイルを更新すればナレッジが自動的に新しくなりますが、内製の場合はインデックス化やチャンク分けといった作業を自分たちで継続的に行う必要があり、エンジニアリソースが限られている我々にとっては持続可能性の面で課題がありました。この経験も踏まえ、当時の社内方針として、内製に傾きかけた流れから「フィットするものはSaaSを優先的に活用していくべきだ」という方向へ転換するきっかけにもなりました。
年間4,080時間削減のインパクトと社員に起こった副次的な変化
現在、本導入に向けて準備を進められているとのことですが、具体的な利用対象や期待される効果について教えてください。
髙橋様:まずは三井不動産ビルマネジメントの従業員1,700名中、約700名を対象に利用を開始する予定です。部署としては、三井不動産の物件を担当しているオフィス事業推進本部と、三井不動産外の物件を担当している受託事業推進本部です。
最も期待しているのは、社内検索業務の効率化です。私自身、入社2年目ということもあり、膨大な量のマニュアルから必要な情報を探し出すのに苦労することがありました。例えば、あるガイドラインは一つにまとまっているもので552ページにも及びます。この中からほしい情報を探すのは非常に時間がかかります。
問合せへの対応は、アンケート結果によると1ヶ月1人あたり10件ほどを対応しており、700名で約7,000件に上ります。中でも私のいる運営部ではマニュアル管理を担当しているため、1ヶ月の対応数は20~30件もあります。これらの問合せにかかる時間、特にマニュアルを探す時間を削減することで、社員の生産性向上に大きく貢献できると考えています。物件担当者は、その先にオーナー様やテナント様がいらっしゃるため、迅速かつ正確な回答が求められます。AI ヘルプデスクがこの時間を短縮してくれれば、コスト換算した場合の効果も大きいと期待しています。
実際、PoC段階での試算では、AI ヘルプデスクの導入により、問合せ対応コストの半減が見込めるという数字が出ています。
ドキュメント検索の対象となるマニュアルは多岐にわたるかと思いますが、精度向上に向けてどのような準備をされていますか。
髙橋様:まずは三井不動産共通基準のマニュアルに加え、設備管理、法務関連など約500件をドキュメント検索の対象にする予定です。できるだけ数は増やさないようにしつつも、ある程度内容別に分けた方がAIは参照しやすいとご教示いただいたので、回答部分が明確になるよう情報を整理し、ドキュメントを細分化する作業を進めています。また、約100件のテスト質問を実施し、質問の仕方(プロンプト)によってAIの回答精度が大きく変わることを確認しました。そのため、導入時の社内説明会などで、効果的な質問の仕方を社員に伝えていきたいと考えています。
従来の問合せ方法と比較して、どのような変化を期待されていますか?
髙橋様:従来は、担当部署や先輩社員へ直接質問するか、共有フォルダ内の膨大なマニュアルの中からキーワード検索や目視で情報を探していましたが、AI ヘルプデスクの導入により、問合せる側は自己解決できる範囲が広がり、質問する際の心理的なハードルも下がることが期待されます。「何が分からないかも分からない」という状況でも、AIと対話することで疑問点が明確になり、それがきっかけで先輩社員とより具体的なコミュニケーションが生まれる、といった副次的な効果もPoCで確認できています。これはプロダクトの直接的な解決領域とは異なるかもしれませんが、非常に価値のあることだと感じています。
グループ全体への横展開と「人とAIの共進化」
今回のビルマネジメント社での導入を皮切りに、今後は三井不動産グループ全体への展開も検討されていると伺いました。
田中様:はい。ビルマネジメント業務と同様の課題は、商業マネジメントやホテルマネジメントなど、他のグループ会社でも抱えています。今回の成功事例を基に、これらの領域へ横展開していきたいと考えています。三井不動産DX本部のミッションとしても、良い事例をグループ内に広めていくことは非常に重要です。
特に、私たちが注力しているスポーツエンタメ領域では、イベント当日にのウェブ検索をすればすぐに分かるような問合せが非常に多いため、対顧客向けの活用も視野に入れています。
ビルマネジメントでの成功事例があることで、他のグループ会社や現場もAI導入に対して信頼感を持ちやすくなっています。定型的な情報検索業務をAIに代替させることで、従業員には建物の付加価値向上といった、より創造的な人間が強みを発揮できる業務へシフトしてもらいたい。業務効率化と価値創造は二項対立ではなく、効率化が進むことで新たなビジネス価値を生み出す時間を創出できるはずだと考えています。
「人とAIの共進化」という点で、大切にされていることはありますか?
田中様:不動産ビジネスは、結局のところ人との接点が最も重要です。例えば土地の売買においては長年培ってきた信頼関係が最終的な決め手になることもあります。三井不動産のDNAとして、そうした人と人との関わりを大切にし、信頼を得てきた歴史があります。生成AIの活用は、この「人と人との繋がり」を希薄化させるのではないかと懸念する声も社内にはありますが、私たちはむしろ逆だと考えています。AIはあくまで人間をサポートするエージェントでありパートナーであるという理解を社内外に広め、人とAIが共に価値を高めていく文化を醸成していきたいです。
最後に、PKSHA AI ヘルプデスクの今後のアップデートやカスタマーサクセスに期待することがあればお聞かせください。
髙橋様:既に精度、操作性、回答速度、参照元の明示といった点で高い評価をPoC参加者から得ていますが、例えば参照元ドキュメントの該当箇所へ直接リンクする機能など、より利便性が高まる機能追加に期待しています。また、私たちの事業は多岐にわたるため、多くの資料を投入した際に、担当者や部門ごとに適切な情報へアクセスしやすくなるような、柔軟なカスタマイズ性も将来的には重要になると考えています。
田中様:生成AIやAIは100%の正解を目指すものではないとずっと社内で言いつつも、やはりその精度を上げていきたいという思いはあります。なので、SaaSプロダクトの強みであるモデルのアップデートによる精度向上にも期待しています。
さらに、これは私の個人的な期待ですが、蓄積された問合せデータをAIが分析し、「この質問が非常に多いですが、そもそもこの業務プロセス自体に改善の余地があるのではないでしょうか?」あるいは「この内容なら、掲示物一つで解決できるかもしれません」といったプロアクティブな提案をしてくれるようになると面白いですね。オンラインのサポートを越えてリアルな業務改善にも繋がり、まさに私たちが目指す「リアル×デジタル」の価値提供、そして冒頭に申し上げた「建物が喋る」ような世界観に近づけるのではないかと考えています。
貴重なお話をありがとうございました。
2025年6月27日時点の情報です。
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企業名 | 三井不動産株式会社 |
業種 | 不動産 |
設立 | 1941年7月15日 |
社員数 | 2,049名(2024年3月31日現在) |
URL | https://www.mitsuifudosan.co.jp/ |
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企業名 | 三井不動産ビルマネジメント株式会社 |
業種 | 不動産管理 |
設立 | 1982年8月4日 |
社員数 | 1,709人(2025年3月現在) |
URL | https://www.mfbm.co.jp/ |