人手不足や業務の煩雑さに悩むコールセンター現場。「対応件数を増やしたい」「品質を安定させたい」といった課題を抱えながらも、日々の業務に追われ、改善に手が回らない方も多いのではないでしょうか。
そこで注目されているのが、AIによる通話の文字起こしサービスです。通話の自動テキスト化は、オペレーターの負担軽減はもちろん、後処理時間の短縮やナレッジ共有の効率化にもつながります。さらに、生成AIと組み合わせることで、通話内容の自動要約や顧客分析まで可能になり、将来的なVOC活用のためのデータ蓄積基盤としても重要な役割を果たします。
本記事では、コールセンター向け文字起こしサービスについて、概要から選定ポイントまで広く解説します。
コールセンター向け文字起こしサービスとは、AI音声認識技術によりオペレーターと顧客の通話内容を自動的にテキスト化するサービスです。電話音声特有のノイズや音質劣化にも対応し、高精度な文字変換を実現しています。
一般的な音声認識ツールとの大きな違いは、コールセンター特有の業務要件に特化した機能を備えている点です。具体的には、話者分離機能(オペレーターと顧客の発言を自動区別)、業界特有の専門用語に対応したカスタム辞書機能、顧客の感情状態を検知する感情解析機能などが挙げられます。
また、通話中にリアルタイムでテキスト化する方式と、録音データを事後処理する方式があり、用途に応じて使い分けることが可能です。近年では、生成AIを活用した通話内容の自動要約機能や、顧客満足度の自動評価機能を搭載したサービスも登場しており、単なる文字起こしを超えた付加価値を提供しています。
文字起こしサービスの導入効果を理解するために、まずは現場でよく見られる課題を整理しましょう。これらの課題は相互に関連し合っており、一つの課題が他の問題を引き起こす悪循環を生み出しています。
コールセンター業界では、慢性的な人手不足が深刻化しています。「コールセンター白書2022」によると、半数近い企業で5人に1人の新人オペレーターが1年以内に離職している状況です。
この背景には、若者の電話離れや他業界における時給の高騰などがあり、新規採用も困難な状況が続いています。人手不足により一人当たりの業務負荷が増大し、それがさらなる離職を招くという負のスパイラルに陥っているケースも少なくありません。
オペレーターは通話中も通話後も多くの業務を抱えています。通話中は顧客対応をしながら同時にメモ取り、システム入力、情報検索を行う必要があり、聞き漏らしや入力ミスのリスクが常にあります。
さらに通話終了後には、通話内容の記録、システムへの詳細入力、報告書作成などの後処理業務が発生し、平均後処理時間(ACW)は通話時間と同程度またはそれ以上になることも珍しくありません。長時間の後処理は、1日の対応件数を制限し、結果としてコールセンター全体の生産性に大きな影響を与えています。
コールセンターでは、オペレーターのスキルレベルや経験により応対品質にバラつきが生じやすい状況です。優秀なオペレーターは顧客満足度を高める一方で、経験の浅いオペレーターは保留時間が長くなったり、適切な回答ができずに顧客をたらい回しにしてしまったりするケースもあります。
全通話のモニタリングは現実的に困難で、具体的な改善策を見つけにくいという課題があります。
コールセンターに文字起こしサービスを導入することで、現場の課題解決と運営効率の向上を同時に実現できます。以下で具体的なメリットを詳しく見ていきましょう。
文字起こしサービス導入により、最も顕著な効果が現れるのがACWの短縮です。従来は通話終了後に手作業で行っていた記録作業が自動化されるため、大幅な時間短縮を実現できます。
たとえば当社の実際の事例では、文字起こしサービスの導入により後処理時間を従来の約50%削減することを実現しています。また、生成AIを活用した通話要約機能により、オペレーターの応対中の心理的負担を軽減することで、より顧客に寄り添った対応を可能にした事例もあります。
このように、生成AIによる自動要約機能を組み合わせることで、単純な文字起こしを超えた効率化が可能になります。重要なポイントを自動抽出し、構造化された要約を生成することで、オペレーターはより多くの顧客対応に集中できるようになり、対応件数増加と残業時間削減の両方を実現できます。
平均後処理時間(ACW)については以下の記事で詳しく解説しています。
平均後処理時間(ACW)とは?長くなる原因と短縮するための改善方法
音声データではできなかった、キーワード検索による通話履歴の参照が可能になります。過去の対応事例を商品名や問題内容で瞬時に検索でき、類似案件への対応時間を大幅に短縮できます。
さらに、全通話内容がテキストデータとして蓄積されることで、よくある質問の傾向分析や効果的な回答例の抽出も容易になります。これにより、新人オペレーターの教育資料作成や、FAQの充実化が効率的に進められ、組織全体のナレッジレベル向上に貢献します。
テキスト化された通話内容により、オペレーターの応対品質を客観的に評価できるようになります。たとえば、話すスピード、専門用語の使用頻度、顧客への配慮表現の有無など、具体的なデータに基づいた指導が可能です。
加えて、優秀なオペレーターの応対パターンをテキストで共有することで、教育資料の作成も効率化されます。感情解析機能を活用すれば、顧客の満足度や不満の度合いを定量的に把握でき、より精密な品質管理が可能になるでしょう。
文字起こしデータを活用することで、VOC(Voice of Customer:顧客の声)を網羅的に収集・分析できるようになります。全通話内容をテキストデータとして蓄積し、顧客の要望、不満、改善提案を漏れなく把握ることで、定量的な分析が可能になります。
さらに、特定のキーワードや感情表現を自動検出し、顧客満足度に影響する要因を定量的に把握することで、サービス改善の優先順位を明確化できます。また、商品・サービスに対する顧客の生の声を関係部署と迅速に共有することで、商品開発やサービス改善のスピードアップにもつながります。
VOC収集・分析については以下の記事で詳しく解説しています。
VOC収集・分析のコールセンター課題と活用ポイント
クレーム発生時には、正確な事実関係の把握と迅速な対応が求められます。文字起こしデータがあれば、クレーム内容の詳細な分析と関係部署への正確な情報共有が可能になります。
また、過去のクレーム事例をテキストで検索・分析することで、問題の根本原因の特定や再発防止策の立案にも活用できます。感情解析機能と組み合わせれば、顧客の怒りのレベルを早期に検知し、エスカレーション前の適切な対応を行うことができるでしょう。
サービス選定では、自社の要件に適した機能と性能を見極めることが成功の鍵となります。技術面、運用面、コスト面の3つの観点から評価ポイントを詳しく整理します。
最も重要な評価項目は音声認識の精度です。一般的に95%以上の認識精度が実用レベルとされていますが、業界や商品特有の専門用語への対応も重要な要素です。
金融、医療、IT等の専門性の高い業界では、業界特化型の辞書機能や学習機能を備えたサービスを選択する必要があります。事前に自社の業界用語リストを用意し、実際の音声データでテストを行うことをお勧めします。
リアルタイム文字起こし機能を活用する場合は、遅延時間(レイテンシ)の評価が必要です。
1〜2秒程度の遅延であれば実用的ですが、それ以上の遅延ではオペレーターの業務に支障をきたす可能性があります。
オペレーターと顧客の発言を正確に区別できる話者分離機能の精度も重要な評価項目です。とくに、声質が似ている場合や、重複して話している場合の分離精度を事前に検証しておきましょう。
現在使用しているCRM、CTI、コールセンターシステムとの連携可能性を検証する必要があります。API連携やデータ出力形式の柔軟性により、既存業務フローを大きく変更することなく導入できるかが重要な判断材料です。データの取り込みや出力の自動化レベルも、運用負荷に大きく影響するため詳細に確認しましょう。
一般的な音声認識サービスではなく、コンタクトセンター業務に特化した機能を備えているかも重要な評価ポイントです。たとえば、NGワードの自動検出機能では、コンプライアンス違反の可能性がある発言を即座に検知し、迅速な対応が可能になります。
また、クレーム自動モニタリング機能では、顧客の感情状態や特定のキーワードから問題のある通話を自動で抽出し、SVによる早期介入を支援します。さらに、文字起こしデータからのシームレスなナレッジ検索機能により、過去の対応事例や類似ケースを瞬時に参照できるため、オペレーターの対応品質向上とSVの管理業務効率化の両方に貢献します。
導入初期のセットアップ支援、運用中のトラブル対応、定期的な精度改善提案など、継続的なサポート体制の充実度も重要な選定要素です。
業界特有の要件への対応経験があるかも事前に把握しておくとよいでしょう。
料金体系はサービスによって異なります。初期導入費用、月額基本料金、席数課金、通話時間課金など、複数の要素を組み合わせた料金設定が一般的です。自社の利用規模や通話量を正確に把握したうえで、最適な料金プランを選択しましょう。
文字起こしサービスの導入形態には、クラウド型のSaaS(Software as a Service)とオンプレミス型の2つがあります。それぞれ異なるコスト構造を持つため、総保有コスト(TCO)の観点から慎重に比較検討する必要があります。
SaaS型は初期導入コストが低く、サーバー購入や環境構築が不要で導入期間も短縮できます。システムの保守・運用はベンダーが担当するため、自社でのIT人材確保や運用負荷を軽減できる点が大きなメリットです。また、機能改善やアップデートが自動的に反映される点も強みといえるでしょう。
オンプレミス型は初期のハードウェア・ソフトウェア投資が必要ですが、大規模運用では長期的なランニングコストを抑えられる場合があります。ただし、専任のシステム管理者の配置や定期的な保守・アップデート作業にもコストがかかる点に注意が必要です。
音声認識処理は通話時間や音声ファイルサイズに応じた従量課金制を採用するサービスが多くあります。1分あたり、または1時間あたりの単価設定を確認し、月間の想定利用量と合わせて総コストを算出しましょう。
また、利用量の変動が大きい場合は、段階的な料金設定や、一定量を超えた場合の割引制度があるかどうかを確認しておきましょう。
導入を成功に導くためには、技術的な性能評価だけでなく、セキュリティ対策と運用体制の準備が欠かせません。これらの準備を怠ると、せっかくの投資効果が十分に発揮されない可能性があります。
コールセンターでは顧客の個人情報や機密情報を大量に扱うため、文字起こしサービスのセキュリティ対策は特に重要な課題です。クラウド型サービスを利用する場合は、データの暗号化、アクセス権限管理、データの保存場所、自動削除機能などを詳しく確認する必要があります。
とくに、個人情報保護法や業界固有の規制要件への準拠状況は必ず確認しましょう。金融機関や医療機関など、高度なセキュリティ要件が求められる業界では、業界認証の取得状況も重要な判断材料となります。
効果的な運用のために、音声認識精度を維持するための定期的な辞書メンテナンス、認識エラーの修正ルール策定、データ分析結果の活用方法など、具体的な運用手順を事前に定めておきましょう。
また、オペレーター向けの操作研修、管理者向けの分析機能活用研修なども欠かせません。音声品質の確保(マイクの使用方法、発話の明瞭さ)については、全スタッフへの継続的な教育が求められます。
運用開始後も、定期的な効果測定と改善施策の実施により、投資対効果を最大化していくことが重要です。
コールセンター向け文字起こしサービスは、人手不足や業務効率化の課題解決に有効な手段です。導入によりACWの短縮、応対品質向上、VOC分析の高度化など多面的なメリットが期待できます。
サービス選定では音声認識精度、システム連携性、セキュリティ対策を重点的に評価し、自社の運用体制に適したものを選択しましょう。
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