音声入力やボイスボットなど、音声認識技術の分野でAI(人工知能)の活用が進み始めています。
AIの活用によって音声の認識精度が向上しており、今後はDX推進が求められる各種ビジネス分野でも普及していくでしょう。
本記事では、AIによる音声認識の仕組みからビジネス面での活用事例、注意すべきポイント、課題等について紹介します。
音声認識とは、人間の会話を記録した音声データをコンピューターで分析(音と文字をパターンマッチング)して、テキストに変換したり、コンピューターを操作したりする技術です。
具体的には、音声や動画の文字起こし、照明などの家電の音声操作製品が挙げられます。
なおパターンマッチングとは、データを検索する際に特定のパターンが出現するかを判別するための手法のことです。
AIを用いた音声認識では、ディープラーニング(深層学習)という技術を取り入れたことで精度が飛躍的に向上しました。
入力された音声データから文章を出力するまで、AIの音声認識がどのような工程をたどるか6つのステップに分けて解説します。
まずは、人間が音声認識機能を搭載したアプリやソフトウェアに向かって話しかけて音声入力をします。
例えば、音声で文字入力ができるスマートフォンや、音声で操作できるスピーカーのマイクが該当します。
入力された音声はアナログデータであるため、そのままではAIによる分析ができません。
コンピューターが理解し処理しやすいように、特微量(特徴が数値化されたデータ)を抽出しデジタルデータに変換するステップが必要です。
このようなデジタル化のステップは音響分析と呼ばれています。
音響モデルを使って、音声データがどの音素に近いか判別しテキスト化を行います。
音素とは音の最小構成単位で、日本語では「母音」と「子音」と「撥音(ん)」の3種類です。音声に最も近い音素を解析し、音素列を作ったうえでテキスト化をします。
近年は機械学習の活用もあり正確に音素の抽出ができるようになりました。
音素列はただのアルファベットの文字列で、単語や意味まではわかりません。そのため、単語と発音(アルファベット)がセットで登録された「発音辞書」を使って照合が必要です。
例えば、「arigatou」という音素列の場合、発音辞書で照合することで「ありがとう」という単語を予測できます。
言語モデルでは膨大なデータから単語同士の出現度合いを統計的に分析し、最も出現確率の高い組み合わせで単語を並べます。
なかでも「隠れマルコフモデル」は代表的な言語モデルで、日本語の文脈が正しくなるように文章化可能です。
音響モデルから言語モデルまでの流れで、AIやディープラーニングが活用されています。
最後に、言語モデルが自然な文章と判定したデータをテキストデータで出力します。
AIの活用で自然な文章が出力しやすくなり、音声認識の精度が向上しました。企業でも音声認識システムを活用することで、業務効率化や入力ミスの軽減といったメリットが期待できます。
以下で具体的な導入事例を紹介します。
音声認識を録音データの文字起こしで活用すれば、会議の議事録なども自動的に作成できるようになります。
リアルタイムで会議の内容を書き起こし、議事録を作成できるため、全員が会議に集中しやすくなるでしょう。
導入後は会議後に文字起こしされたデータをまとめるだけで済むため、議事録作成が効率化します。
近年のスマートフォンやスマートスピーカーに搭載された音声アシスタントのように、話しかけるだけで電子機器を操作できるようになります。
音声認識サービスと翻訳システムを組み合わせることで、多言語間の通訳や翻訳が可能です。
音声認識AIを活用した翻訳機も登場しており、今後はビジネス分野でも通訳を介さずにコミュニケーションが可能になることが予想されます。
病院や工場などでは、キーボードの代わりに音声入力で電子カルテの作成や監査業務を行っている職場もあります。
音声入力にすることで、タイピングが苦手な従業員でも入力が簡単になりました。また、変換ミスや入力ミスも減ったため、結果的に業務時間の短縮効果もありました。
テキストを自動で読み上げる音声合成ソフトや、リアルタイムで声を変換するボイスチェンジャーでの活用も広がっています。
もともとは目が不自由な人をサポートする機能でしたが、近年ではコンテンツ作成など幅広い分野で活用されています。
コールセンター等で導入される対話型のボイスボットは、会話内容の把握だけでなく顧客とのコミュニケーションも自動化することができます。
電話の応答率を上げるのと同時に、AIで処理できない問い合わせのみオペレーターが応対することで、人手不足に悩む現場での業務改善が実現しています。
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音声認識サービスを活用するうえで、精度が下がりやすい場面も把握しておくことは重要です。
以下でご紹介します。
音声認識システムは周囲の雑音や異音が多い環境の場合、認識精度が落ちる可能性があります。
周囲の音やノイズも聞き取ってしまい、本来判別したい音素が聞き取れなくなるためです。
例えば、会議のように常に話している人が1人であれば精度の高い音声認識ができますが、ディベートのように複数人が一斉に話す環境では認識率が低下します。
また、発言者の特定も難しいため、議事録編集の手間が逆に増えてしまう可能性もあります。
音声認識の精度を上げるために、複数の人が話す場ではマイクを分ける等の対応が必要になるでしょう。
音声認識であっても人に話すときと同様に、明瞭な発声や適切な音量を意識する必要があります。
方言や砕けた表現(若者言葉や一般的ではない造語)など、発音辞書に含まれない単語は認識ができない場合も多いです。
AIの利用で飛躍的に精度が向上した音声認識ですが、音響モデルや言語モデルなどさまざまな仕組みのうえで成り立っています。
音響モデルによる音素の特定や言語モデルによる自然な文脈での文章化など、各モデルがどのように動作しているか把握することで、音声認識の活用方法も明確化できるでしょう。