企業にとって、コールセンター(コンタクトセンター)やサポートセンター、ヘルプデスクの問い合わせ対応などの「対応品質向上」は重要な課題です。対応品質は顧客満足度の向上や企業のブランド力にも影響を及ぼします。そのため、コールセンターやサポートセンターなどの問い合わせ業務は企業の印象を左右するといっても過言ではありません。
対応品質向上のためにはオペレーターにかかる負荷を減らす必要がありますが、施策の1つは「よくある問い合わせ」を削減することです。ここでは、よくある問い合わせが減らない原因と、削減すべき理由、そのための具体的方法について解説します。
最初に、多くの企業において、よくある問い合わせが減らない原因について解説します。
よくある問い合わせが増えてしまう主な原因は、顧客を自己解決に促せていないことです。具体的には、顧客はまずWebサイトやFAQページを確認するものの、そこでは質問に対する答えが得られず解決できなかった場合、コールセンターやサポートセンターに問い合わせをしています。
それは単にサイトに掲載されている情報量そのものが不足しているからではありません。いくら大量の情報を掲載していても、それが顧客のニーズに合致していなければ意味がありません。必要十分な情報が適切に取捨選択して掲載されていないことが、よくある問い合わせが減らない根本的な原因といえるでしょう。
よくある問い合わせの削減は、電話、メールといった問い合わせ窓口の「有人対応の削減」に直結することを覚えておきましょう。前述した原因を踏まえて、よくある問い合わせを削減する4つの方法について解説します。
よくある問い合わせを削減するための1つ目の方法は、商品の説明やマニュアルを充実させることです。そうすることで、顧客が抱える悩みの自己解決を促せるのが大きなメリットです。
商品の使い方やトラブルシューティングに関しては、本来製品購入時に梱包されている説明書やマニュアルを見れば解決できる場合が多くあります。しかし、製品の購入から時間が経過しており、説明書やマニュアルを紛失してしまった顧客も多くいます。そうした事態にも対処できるように、説明書やマニュアルをPDF化してダウンロードできるようにしたり、オンライン化してWebサイトから見られるようにしたりしておきましょう。
よくある問い合わせを削減するための2つ目の方法は、FAQの導入や改善を行うことです。これも顧客の自己解決を促すための施策といえるでしょう。
FAQとは、「Frequently Asked Questions」の略で、日本語では「よくある質問」と訳されます。つまり、顧客に共通する悩みやトラブルを想定して、ホームページ上に回答を記載しておくのです。そうすることで、質問者はカスタマーセンターなどに電話する前に自分の悩みがそこに含まれていないか確認でき、提示された解決策をもとに自己解決を図れるようになります。
FAQの導入において大切なことは、顧客の多くが本当に知りたい質問を掲載することです。闇雲に情報量だけ増やしても、顧客は質問に対する答えを見つけることができません。そのためには、絶えず顧客のニーズを分析し、改善を続け、コンテンツを充実させることが大切でしょう。また、検索機能を向上させるなど、ユーザーがなるべくストレスを感じることない少ない手間でFAQページを利用できるようUI(ユーザーインタフェース)を設計するのもポイントです。さらに検索データを見える化して分析し、キーワードに対する検索精度の向上も欠かせません。
また、FAQシステムの中には、顧客がお問い合わせフォームを入力する際に、お問い合わせ内容に合わせたFAQを自動で表示する機能が付いているものもあります。サポート機能が付いたFAQシステムを利用することで、FAQの用意はあるものの、該当する回答を見つけられなかった顧客を自己解決に促すことができます。
また、社内向け・社内用のFAQを設置してナレッジを蓄積して共有するのも効果的です。例えばカスタマーサポートなどの場合、各問い合わせの内容や返答はもちろん、対応部署・部門への連携などのデータを蓄積、クラウドステージなどのITツールで共有して誰でも迅速に調べられるような仕組み(ナレッジマネジメント)を構築できれば、より円滑な問い合わせ対応を図れるでしょう。さらに顧客対応をマニュアル化でき、オペレーターのやりとりがスムーズに行えるうえ、担当者の熟練度や個人の能力に業務品質が左右されにくい「対応品質の平準化」も高いレベルで行える可能性もあります。その結果、人材教育費の削減、情報の一元管理による管理コストの低減にも期待できます。
よくある問い合わせを削減するための3つ目の方法は、チャットボットの導入です。チャットボットとは、チャットを用いた自動システムのことです。
FAQと同じく、顧客が個別にカスタマーセンターやサポートセンターに連絡する前に活用してくれれば、よくある問い合わせを削減できます。AIを搭載したチャットボットであれば、FAQよりも抽象的な疑問に回答しやすいのがメリットです。また、シナリオ型のチャットボットも事前に作成したシナリオに則って、ユーザーを誘導しながら適切な回答につながる選択肢を提示できます。いずれにしても、UX・UIの優れたITツールといえるでしょう。
ただし、チャットボットも導入時のコストが発生するうえ、FAQと同じく日々の効果測定と導線の修正、更新といったメンテナンスも欠かせません。AIを搭載したチャットボットは特にイニシャルコストが増大しやすいため、計画的な導入と運用体制の構築が大切です。
よくある問い合わせを削減するための4つ目の方法は、ボイスボットの導入です。ボイスボットとは、AIを活用した自動音声システムです。
例えば、住所変更や給付金の受付など、どうしても問い合わせなければならないものの、定型的な回答で済む場合、ボイスボットの導入が効果的です。人の手を介さずに問題が解決するため、人件費の削減にもつながります。
ここでは、よくある問い合わせを削減したほうが良い3つの理由について解説します。
1つ目に、よくある問い合わせを削減すれば、オペレーターの業務負担の軽減につながります。
例えば5人のオペレーターに対して10人の顧客が電話で問い合わせをするとします。そのうち6人は同じ質問をしたいと思っています。もし、よくある質問を削減するための対策を何ら講じなければ、オペレーター5人が5人の顧客に対応しなければならず、さらに残りの5人は待機することになります。
それに対して、6人が共通して知りたいと思っている質問に対してホームページなどにFAQを掲載しておけば、5人のオペレーターが対応する顧客は残り4人で済むことになり、無駄を減らし、リソースを割くべき業務に集中できます。また、オペレーターを激務から解放できるので、離職率低下にもつながるでしょう。
2つ目に、よくある問い合わせを削減することで、顧客満足度の向上が期待できます。上述の例から分かるように、問い合わせ件数が減ることで、オペレーターのリソースが温存され、対応品質の改善につながります。また、顧客の待ち時間も短縮されるでしょう。
3つ目に、よくある問い合わせを削減することで、コスト削減につながります。よくある問い合わせも含めて、すべての問い合わせに対してオペレーターが対応していたら、慢性的な人手不足に悩まされ、それを解決するための人件費はかさむばかりです。また、激務に耐えかねて離職が増えれば、採用コストや研修費用がかかってしまいます。よくある質問に対して適切な施策を行うことで、それらのコストの削減が可能になります。
よくある問い合わせを削減する鍵は、いかに顧客を自己解決に導くかです。そのためには、FAQやチャットボットなどツールを充実させることが重要です。ただ、一方で問い合わせ内容が多様化しており、ツールだけでは解決できない内容も増えていることも事実です。そのため、ツールから有人のコールセンターやカスタマーサポートに連携できるようにしておきましょう。