CXジャーナル - 顧客と向き合うすべての人の“よりどころ“

属人化の原因とリスクとは?業務標準化の方法まで徹底解説 - CXジャーナル

作成者: CXジャーナル編集部|May 21, 2020 3:00:00 PM

昨今ではリモート・テレワークの一般化に伴い、「業務の見える化」や「属人化の解消」、「業務平準化」等が改めて着目されるようになりました。ただ、「属人化」は企業組織の経営リスクに影響を及ぼす要因にもなるため、課題感としてある場合には、市況如何に問わずその解消に向けて取り組む必要があります。
本記事では、属人化してはいけない業務やそのリスク、属人化を解消して業務を標準化する方法までご紹介いたします。

属人化とは

属人化とは、特定の社員が担当している業務の詳細内容や進め方が、当人以外では分からなくなってしまう状態を指します。一般的にネガティブな意味で用いられており、担当社員が突発的に休んだ場合や退職した場合などに問題が顕在化します。

一方で、業務フローやノウハウなどのナレッジが管理されていて、誰でも同様に業務に取り組める状態を「業務の平準化」といいます。
民間企業での「終身雇用制度」も成り立たなくなり転職が一般化している今日の日本において、“人に依存しない仕組み(=業務の平準化)”はどこの企業組織でも必須の取り組みといえるでしょう。

また、もし社内で下記のような状況が散見される場合には、属人化の課題がある可能性が高いです。

【例】業務が属人化している職場でよくある状況:
 ・「今日は○○さんが休みだからこの業務は対応できない」
 ・「この件は○○さんの意見を聞かないと判断できない」
 ※決済等の管理職業務は対象外。

予め仕組み化をしていない限り、このような属人化は組織内で自然と生じてくるものです。

以下、属人化による具体的なリスクと生じる背景・原因について確認してみましょう。

属人化による4つのリスク

1. 業務がブラックボックス化する

社員が担当業務を遂行するうえでのプロセスが見えづらくなり、個々人で異なる業務工数が生じるようになります。

例えば、もし従来の業務フローやオペレーションより効率的・効果的なベストプラクティスを実践できる社員がいたとしても、他の社員や管理職はその術を知ることなく従来通りの非効率的・非効果的な方法を疑問すら持たずに続けることになります。どこの企業でも業務効率化は議論されるテーマですが、属人化している現場では業務改善の課題感に気付けない、というケースも往々にしてあります。

2. 業務フローでボトルネックができてしまう

特定の社員でしか対応できない業務が増えてくると、当該業務の進捗が担当社員の稼動状況に応じて影響を受けるようになり、結果的にボトルネックとなってしまいかねません。
この事態は、組織・チーム内で担当業務の縦割りが進行していくと徐々に深刻化してきます。

3. 品質管理ができなくなる

特定分野で経験・ノウハウのある社員による専任業務が増えてくると、稼動しているタスクや全体の業務フロー、最終的な成果物の品質を評価することが難しくなってきます。
上長にあたる管理職が当該分野に対してある程度の理解があればいいですが、そうでない場合、業務非効率の温床にもなり得てしまいます。

4. 担当社員の退職で業務や業績が崩れる

社員が独自のノウハウやスキルを他社員へ十分に共有・引き継ぎをしないまま退職した場合、企業やその現場ではビジネスや業務の再現性が著しく低下することになります。
これは主に営業職社員や専門職社員(技術職、マーケティング関連職種など)で顕著な属人化リスクといえるでしょう。

自社の製品・サービスや売上に直接影響してくるリスクになるので、前述の3つよりも深刻な問題へ発展する可能性が大きいです。


属人化が生じる4つの原因

1. 多忙で業務に追われている

これは各社で属人化が一番生じやすいケースです。社員それぞれが様々な案件の対応に追われており、企業・組織としても情報管理よりまずは業務推進や新規受注・売上を優先しているという状況が起因します。

黎明期のスタートアップ企業等であればよくある話かもしれませんが、100名以上の社員を抱えているような企業・組織であれば社内ナレッジとして管理・共有の仕組みを整えていく必要があります。

2. 業務の専門性が高い

これも想像しやすいケースです。プログラミングやサイバーセキュリティ、Webマーケティングなど専門的な知見や経験が必要と考えられている業務では、ノウハウを持つ担当社員の裁量で業務が進められていくことが多いでしょう。
この場合、当該業務の担当社員から他社員へ知見や経験を共有・教育していける仕組みが整っていればチームとしてレベルを底上げが見込めますが、何も整えずに放置していると属人化が進んでしまいます。

3. 非生産業務で人員を割けない

営業、制作、開発などの生産部門であれば、定量的な指標で投資対効果(ROI)を判断しやすいため人員増強等もよくある話ですが、総務、人事、経理などの非生産部門では少数精鋭という体制が少なくありません。
この場合、少人数の担当者間のみでルールやノウハウが認識されているというケースが多いです。これも属人化リスクの温床となります。

4. 「個人成果主義」が根付いてしまっている

前述の理由3つでは、「結果的に属人化してしまう」というケースをご紹介しましたが、4つ目の属人化理由は「社員が意識的に属人化していく」というケースになります。
営業組織等がとくにイメージしやすいかと思いますが、「個人成果主義」が根付いている現場では、情報・ノウハウが社内競争の中で武器や資産として扱われます。そのため必然と共有の文化は根付かず、各方面で属人化が深刻化していきます。

属人化してはいけない4つの業務

属人化により生じるリスクやその理由についてお伝えしましたが、注意すべき“属人化してはいけない業務”とはどのようなものが該当するのでしょうか?

1. バックオフィス業務

契約書の押捺処理や請求書の処理、在庫の管理・発注などは、担当する社員によってやり方が異なる、もしくは対応できない社員がいるなんてことはあってはいけませんよね。
バックオフィス業務に代表されるような、「誰でも同じ品質を提供する必要がある業務」は属人化してはいけない業務といえます。

2. 案件の対応フロー

お問い合わせがきた際の対応フローやプロジェクト進行するうえでの業務フローなども、いくつかの場合分けこそあるでしょうが、社員によって進め方が大きく異なるといったことは好ましくありません。
この業務で属人化が生じると、管理職は、誰がどの案件をどこまで進めているのか?スケジュール遅延はしてないか?問題が発生していないか?といった進捗を把握しづらくなります

3. 自社の製品・サービスに関する説明

自社の製品・サービスの機能や費用感の説明、サポート内容の説明などはどの社員が対応をしても原則として同じ回答にならなければいけません。Webサイト上で掲載している情報と個別対応で回答する情報に乖離があると顧客は混乱してしまいますよね。

これは主に、営業部門やマーケティング部門、カスタマーサポート(カスタマーサクセス)部門など、顧客と直接接する機会のある方々の担当業務になるでしょう。

4. トラブルシューティングやセキュリティインシデントの対応

これは普段あまり意識していないかもしれませんが、非常に重要な業務であり、ルール化・標準化の徹底が必須です。顧客対応でのトラブルシューティングやセキュリティのインシデントレスポンスでは、初動対応の内容次第でその後の被害の大きさを左右します。

そうした経営リスクにも関わる対応フローが担当社員によって異なるということはあってはなりません。

窓口担当の一時対応や内容に応じたレポートラインの整備など、全社員の中で共通認識を持っていることが必要です。


業務標準化の3つのメリット

社内でのルールや業務上のノウハウといったナレッジを管理・共有していくことができれば、担当社員を問わず業務は標準化され、属人化は解消していくことができます。

そうした業務標準化による3つのメリットを以下で確認してみましょう。

1. 品質の維持・向上

前述でも触れてきた通り、業務の標準化が実現できると、ベテラン社員でも入社間もない社員でも同様の業務フローで同じ品質の成果物を上げることが可能になります。

また、同一の業務フローやオペレーションが求められる中で、業務効率を改善できるアイデアがある社員がいれば、従来の方法を全社的に見直すきっかけにもなります。そうして全社の業務効率を改善することができれば、品質の維持だけでなく向上まで叶えることができます。

2. 時間と思考力のリソース有効活用

マニュアルやFAQなどの形で業務標準化の仕組みが用意されていれば、「まずは何からしたらいいんだろう?」「全体でどんなタスクが必要になるんだろう?」等を考える必要がなくなり、上長にあたる管理職や同僚社員も担当社員からの質問・相談に対応する必要がなくなります。
これは結果的に、複数社員の時間と思考力の必要リソースを削減することができるため、その分のリソースを他の業務に充てることが可能になります。

3. 従業員の不在・退職時にも柔軟に対応できる

ライフステージに合わせた休職や転職が一般化している今日では、人に依存しない業務推進が非常に重要になっています。業務標準化や情報共有の仕組みが整っていない職場では、社員の誰かが休職や退職をするとなると引き継ぎ作業でてんやわんやといった状況になりがちです。

また、退職の際の引き継ぎというのは往々にして十分にできないものです。そのため、当該社員が退職した後に業務効率が低下し、場合によっては顧客との関係値悪化や契約解消といった事態にまで転じる可能性すらあります。

その点、業務標準化の仕組みが整えられていれば、突然の休職や退職で業務が滞ることはないでしょう。

業務標準化の方法

ここからは、属人化解消・業務標準化を実現するための方法をご紹介します。

【Step1】 業務の棚卸しと整理

まずは、どのような業務フローや社内ルールがあるのかを棚卸しします。前述した下記の業務から洗い出し・整理をしてみるといいでしょう。

 ■ バックオフィス業務
 ■ 案件の対応フロー
 ■ 自社の製品・サービスに関する説明
 ■ トラブルシューティング/セキュリティインシデントの対応

また、改善の余地がある業務フローや社内ルールに関しては、これを契機に改善策を議論するべきです。そのため、上記をはじめとした標準化業務の従事者全員へヒアリングを行い、より効率的・効果的な方法に向けて議論を深めるといいでしょう。

【Step2】 標準化業務をFAQでナレッジ化

それぞれの業務で標準化する内容が決定したら、FAQコンテンツとしてナレッジ化を行います。
企業として社内向けにFAQシステムを導入していれば理想的ですが、一般的なグループウェアシステムであればFAQ機能が実装済みであることが多いので、自社で利用している社内システムを一度確認してみるといいでしょう。

また、FAQでなくPowerPoint等のOfficeソフトでマニュアルを作成するケースが多いかと思いますが、あくまでもFAQを推奨します。理由としては、ドキュメントファイルのマニュアルよりもFAQシステムの方が運用性がはるかに高いためです。

▼ナレッジの運用で重要な3つのポイント
(1) 検索性の高さ
(2) 内容の分かりやすさ
(3) 情報の正確性・更新性

ドキュメントファイルによるマニュアルは、資料作成等の業務で扱い慣れているため、一見運用しやすいように感じるでしょう。ただ、ナレッジの運用で重要になる3つのポイント(上記)に沿って考えると、「検索性の高さ」と「情報の正確性・更新性」という2点で問題があります。

まずドキュメントファイルの場合、社員がマニュアルを参照したいと考えたときに検索をかけづらい点があります。LANDISK等の共有フォルダ内の検索ウィンドウから調べようとすると、マニュアル以外の複数のファイルもヒットしてしまい、また往々にして検索速度も遅いです。検索性が低い場合、一度作成したマニュアルの情報更新も必然されなくなってしまい、結果的に誰も閲覧・活用しないといった末路へ行きつきます。

その点、FAQシステムであれば、ナレッジを運用していく前提での機能が実装されているため、類義語含む検索機能やページ内の導線設計が可能になります。

【Step3】 FAQサイト運用のPDCAを回す

FAQコンテンツの作成が一通り完了すれば、あとは運用を回していくフェーズに入ります。
グループウェア内のFAQですと難しいかもしれませんが、FAQシステム自体をベンダーと契約している場合には、運用を回していくためのトレーニングコース等が用意されていることがあります。そうした運用サポートを活用しながらPDCAを回していくことができれば、社内ルールや業務フローなどのナレッジを管理・共有し、業務の標準化を実現していくことができるでしょう。


社員が利用しやすい仕組みを整えよう

属人化というのは担当社員の休職・退職といったことがあるまでなかなか実感しづらい課題ですが、ご説明してきたようにその経営リスクは大きいです。これまでは優先度の兼ね合いで属人化の問題にメスを入れることのできなかった場合でも、昨今のリモート・テレワーク体制と併せて社内向けFAQシステムを導入し、業務標準化を推進するケースが増えているようです。

ただ、FAQであれドキュメントファイルであれ、重要なのはマニュアルの作成ではなく社員の皆さんが利用しやすい運用を実現することなので、その点は目的と手段がすり替わらないように気をつけましょう。

なお、「社内FAQ」を活用して組織の生産性を向上させるフレームワークに関して、下記の無料ダウンロード資料『組織の生産性を高める、ナレッジ体系化のフレームワーク ~6つのステップで“型”をつくる~』を公開しています。ぜひご活用いただければと思います。