チャットボットとは、会話を意味する「チャット」と、ロボットの「ボット」を合わせた言葉で、顧客からの問い合わせに対して自動応答するシステムです。既にさまざまな企業での導入事例があり、コールセンター・コンタクトセンターにおいては業務効率化などの成果を挙げています。一方で、チャットボットにも苦手な作業はあり、期待した効果が得られない可能性もあります。
そこで本記事では、チャットボットの仕組みとして「できること」と「できないこと」、適切な活用方法を解説します。カスタマーサポートに関わる方などは、ぜひご確認ください。
チャットボットの導入を成功させるには、自社の課題と導入目的を明確にすることが重要です。まずは、チャットボットができることを確認していきましょう。
チャットボットを導入することで、簡単な問い合わせには自動で対応してくれるようになります。
これにより顧客は問題を自己解決しやすくなり、その分オペレーターの業務負担は軽減します。また、従来のように大量の人員は必要なくなるため、人的コストの削減につながるでしょう。余ったリソースを別の業務に当てることも可能となり、企業全体の生産性向上も期待できます。さらに、営業時間外の問い合わせにも対応できるようになるため、結果的に顧客満足度の向上につながります。
なお、チャットボットの用途は社外向けに限りません。例えば、社内向けのビジネスチャットに設置すれば、社員は必要な情報にアクセスしやすくなります。その他、SNSやアプリとの連携にも優れるなど、さまざまなビジネスシーンに対応可能なツールなのです。
チャットボットは、マーケティング戦略の一部としても活用できます。顧客の生の声をデータベースに蓄積・分析することで、自社製品やサービスの品質を改善するヒントが得られるからです。また、自社サービスのターゲット層や顧客ニーズがより明確になるため、新商品の開発にも役立つでしょう。
ちなみに、チャットボットがマーケティングにも活用できる理由には、問い合わせのしやすさが関係しています。現在は若者を中心に、電話やメールよりもチャットボットが好まれる傾向があり、どこでも手軽に問い合わせできるのが人気です。また、「相手は人間でなくAI(人工知能)」という安心感もあるため、小さな疑問でも質問しやすいようです。
顧客との接点を増やすことで、CVRの向上を期待できます。Webサイトにチャットボットを設置しておけば、顧客は気軽に質問して、回答を得ることができるでしょう。先述したように、チャットボットは電話よりも問い合わせのハードルが低いため、顧客との接点が作りやすいです。その他、チャットボットによってCVRが改善する理由としては、以下が考えられます。
なお、フォーム離脱とは、顧客がフォーム入力の途中で離脱することを指します。チャットボットとフォームを連携させれば、チャットツール上のやり取りだけで購入手続きなどが完了するため、顧客の負担は少なくなります。
続いて、チャットボットの苦手分野について解説します。チャットボットのできないことを理解して、導入後にミスマッチを起こさないようにしましょう。なお、運用準備として、シナリオ構築や回答の用意なども必要なので注意してください。
臨機応変なトラブル対応が求められる場面において、チャットボットはうまく機能しません。チャットボットは顧客の感情やニュアンスを十分に理解できず、相手に寄り添うような対応を取るのが難しいからです。また、不測の事態に対応するのも得意ではありません。
例えば、オペレーターの代わりにチャットボットがクレーム対応を行うことは難しいとされています。チャットボットは、あくまでも事前に機械学習したシナリオや情報を基に返答する自動会話プログラムであり、人間のように心のこもった謝罪はできないのです。また、想定外の質問や曖昧な質問にも受け答えできません。
以上のように、チャットボットは迅速な判断や柔軟な対応が必要な場には向いていません。
チャットボットは、FAQ(よくある質問)のようなシンプルで定型的な質問に答えるのは得意ですが、複雑で専門的な質問を苦手としています。なぜならば、専門性の高い質問に答えるためには、その分野に関する膨大なデータを集めなければならないからです。仮にデータを集めるにしても、シナリオ型(ルールベース型)・AI型のいずれのタイプでも、学習には相当な手間と時間を要してしまいます。
また、質問内容が複雑なケースやテキストが長いときには、顧客が何を求めているのか理解できないことがあります。現在のチャットボットでは、意図のはっきりした質問は理解できても、複雑な文脈を理解できるレベルではないのです。誤った回答を返すおそれがあるため、チャットボットの設定で、回答ができないときの対応方法を登録すると良いでしょう。
チャットボットは、人間のように「パーソナライズした対応」を提供することが苦手です。人間であれば顧客の話を聞いた上で、個々人に応じたアドバイスができますが、チャットボットは一般的な回答しか持ち合わせていない場合があります。
ただし、サービスによってはパーソナライズ機能を搭載したチャットボットもあります。これは顧客の行動履歴データなどを蓄積・分析することで、離脱の防止やCVRの向上につなげるものです。
有人対応に切り替えるのも選択肢の1つですが、パーソナライズ搭載型のチャットボットを検討するのも良いでしょう。ベンダーや製品を比較する際の参考にしてみてください。
チャットボットが「できること」を活用するには、何を意識すべきでしょうか。ここでは2つのポイントをご紹介します。
チャットボットは、問い合わせ対応を自動化する機能を有する一方、複雑な質問に回答するのが苦手です。そのため、導入に合わせてオペレーターとの連携を強化すると良いでしょう。つまり、有人対応(オペレーター)とチャットボットを組み合わせることで、人的コストを削減しつつ対応できる範囲を広げられるのです。
例えば、クレーム対応や個別対応などは臨機応変な対応が求められるため、チャットボットから有人対応に切り替えます。その際、オペレーターはチャットボットのログを確認できるため、スムーズな会話につなげることができます。顧客にとっても、改めて質問内容を伝え直す手間が省けるため、問い合わせのストレスが軽減します。
イレギュラーな対応が必要な場合には、オペレーターにつなげる設定をしておきましょう。
チャットボット導入の注意点として、導入後のチューニングや運用を怠らないことが大切です。回答精度を向上させるには、数多くのQ&Aをインプットしなければなりません。
具体的な作業としては、顧客の問い合わせ内容の傾向を分析して、チャットボットのシナリオや回答パターンに取り入れます。チューニングのポイントは、顧客のニーズを汲み取った上でチャットボットを教育し、回答精度を確認し続けることです。
また、Webサイト上で導線設計を見直すのも重要です。顧客がチャットボットを利用しない限り、コールセンターの業務効率は改善しないからです。チャットボットをファーストビューに表示するなどして、顧客に存在を認知してもらいましょう。
チャットボットの導入は、顧客満足度向上に貢献するだけでなく、オペレーターの働き方にも大きな影響を与えます。企業側のメリットは多く、問い合わせ業務の工数削減やオペレーターの負担軽減などを実現できます。また、社内ヘルプデスクに活用すれば、ITサポート業務の負担が軽減すると同時に、ユーザー(社員)も気軽に問い合わせできるようになるでしょう。
一方、チャットボットは複雑な質問やトラブルに対応するのは苦手なため、有人対応との連携は必要だといえます。
このようにチャットボットにはメリット・デメリットの両方があるため、導入時は「できること」だけに注目しないようにしましょう。チャットボットの選び方のコツとして、「できないこと」や製品の特徴も把握した上で選ぶことをおすすめします。